独白脳の男
配達員
第1話「学生の頃の説教をされている時」
私は廊下の窓際に立たされ、説教を受けている。
教師の放つ言葉の一つ一つがナイフに変わり、そのナイフは私の胸に突き刺さった。刺された胸からは自身が犯した罪の記憶が流れ出した。額に浮かぶ脂汗とともに、口の中はサハラ砂漠よろしく渇いていく。
これ以上まともに教師の言葉に付き合っていると身が持たない。私は自身の体の心配と説教を聞き流すことに意識を集中させた。
やがて教師は自身の説教に満足したと見え、私はしてもいないのに「反省したと見える」などと勝手なことを言うと、私に家に帰るよう促した。
説教をしている教師に時々思うのだが、奴らは自分が『支配者』にでもなったつもりでいるのだろうか。
だとすれば、私にした説教の時間というものはナチス・ドイツよろしく『私こそが支配者なのだ』と私の頭に刷り込むためのものではないか。
私は自身の憤慨を、地面を強く踏み歩くということでしか表せなかった。人間とは形容し難い感情に襲われた時、原始に帰るものなのかもしれない。私がそんなことを考え歩いてると、最早教師の説教の内容など頭には残っていなかった。
しかし、こうして冷静に考えていると、あの説教がどうも洗脳に近い何かに見えてくる。子供の考える論理というのは大人にとってはくだらない妄想にすぎないだろうが、子供にとっては自身の見えている世界こそが全てだ。大人に自身の世界を語り馬鹿にされるくらいだったら、せめて口を閉じて大人の言うことに従い、自身のちっぽけな世界を守るのが利口だろう。
私は学校に蔓延る『支配者』を見つけ出し、そいつのする説教は最初から聞き流そうなどと考えた。
私は前進する足により一層強い力を込め、一歩一歩を踏みしめるようにして歩いた。これからは『支配者ども』を見分けるための観察の日々が始まるのだ。子供の出来る精一杯の抵抗を、彼らに叩きつけてやるのだ。
もっとも、彼らは観察されていることにも、抵抗されていることにも気付かないだろうが。
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