第21話 アホウの真実

時間と時間の狭間。

世界は極限まで刹那を刻むフレームと言う単位で常に作りかえられている。

そして、その刹那の狭間には世界が認識出来ない程細かい隙間が存在する。

ここはそんなゲームで言えばバグの様な空間・・・

そこに木の板を並べただけの様な橋が浮かんでいた。


「お帰りなさいませご主人様・・・」


左半分が緑の髪、右半分は金髪、首から下は赤い髪と言う3色の髪を後ろ数メートルの地面に広げながら両手で裾を持ち上げる女性が居た。


「ただいま、凪」


その場に降り立ったのは全身ボロボロになったヒロシであった。

オメガデーモンの怨霊ブレスをモロに受けた状態は回復薬等を使用して回復したのだが時が立てばその傷は再び開く。

ブラッドダメージと呼ばれる肉体ではなく血そのものにダメージが残るあの攻撃を受けた結果であった。


「お風呂にします?ご飯にします?それとも・・・わ・・・が・・・し?」

「何故和菓子?どっちかって言うと洋菓子が良いんだけど」


不思議な会話をするヒロシに向けられた瞳は黒と白が左右で逆であった。

オッドアイというよりは何かを宿したようなその瞳には不思議な迫力があるがヒロシは気にした様子も見せず奥の部屋へと歩いていく・・・


「襲虫治療室使うよ」

「そうですか・・・貴方ももう直ぐなのですね・・・」


凪の悲しそうな表情にヒロシは頭に手を優しく乗せて微笑む。


「大丈夫、俺は果たすよ。次のアホウ使いは生まれない」


凪はゆっくりとヒロシの顔に自らの顔を近づける・・・

距離が近付く顔と顔であるがヒロシは気にした様子も無く凪を見詰める。


「セクハラです。今すぐにその手をどけないと原子崩壊させて異界のゴミとして破棄しますよ」

「セクハ・・・先に言わないで下さい」


ヒロシが凪か口に出そうと思った事を先に告げて笑う。

先手を取られた凪は無表情の口端を少し上げて立ち上がった。

そのまま凪が何も無い方向へ歩き出すとそこに木の板が出現し道となる。

ヒロシはその後ろを引きずる髪を踏まないように気をつけながら後ろを付いて行く。

離れすぎると今度はその木の板が消えていくので遅れないように気をつけているのだが・・・

凪の歩く速度はどんどん早くなっていく・・・

徐々にヒロシも歩いていた状態から早歩き、駆け足と速度を上げていく・・・


「毎度の事ながらハンター試験かよ?!」

「何を言っているのか分かりませんが」


とぼける凪の後を暫し追いかければそこには巨大なカブトムシが直立していた。

まるで標本が立てられているように真っ直ぐに立って背をこちらに向けているのだ。

ヒロシはそのカブトムシの背中にタッチする。

するとそのヒロシの体が光に包まれて空に浮かび上がった。

何も無い闇の中に白い線で出来た部屋の様なものの中にヒロシは浮かび上がりそこで両手を広げて立つ。

直ぐにそれは起こった。

その中に白い線で出来た小さな虫が大量に出現しヒロシの体に襲い掛かったのだ!

だが抵抗する事無くその虫をその身に受けて目を閉じているヒロシ。

すぐにそれは起こった。

ヒロシの体から虫が何かを吸い上げているのだ。

その何かを吸い上げた虫は白い線だけであった体に中身が出来てそのまま何処かへ飛び去っていく・・・


「これくらいにしておきましょう」


凪が口にすれば新しい白い線で出来た虫はそれ以上生まれる事無く今居る分の虫が全て飛び去った。

そして、ヒロシはそのまま仰向けに倒れる。


「つ・・・つれーよやっぱり」


それを見上げていた凪が自らの髪を手で撫でる。

するとまるでハーブを鳴らしたように不思議な音が虹となりヒロシに向かって伸びていく・・・

虹はヒロシの下へ潜り込んでその体を滑り台の様に虹の上を滑らせて凪の元へ動かした。


「ちょっ?!凪お前っ!?」


滑ってくるヒロシを両手を広げて待ち構えていた凪であったが直前でヒロシは虹から横へ転げるようにそれを回避した。


「ちっ」


ヒロシの回避行動に舌打ちをする凪にヒロシはギリギリ木の板の上に着地して大きな溜め息を吐く。

その抱擁が何を招くかをヒロシは知っているからこそ回避したのだ。


「まだだ、俺は・・・俺があいつを滅する!」

「ですがもう貴方の魂は限界ですよ?」

「分かってる・・・」





それはアホウ、亜空間連結次元魔法を使う事が出来る者の宿命。

古来より一つの世界を全て喰らいその世界を滅ぼしたデビルバハムート。

その身に喰らった者の力を蓄える事が出来るその魔物は世界そのものの力を得た。

神々は戦慄した。

そいつは世界そのものの力を一つの身に宿した存在となったのだ。

本来一つの世界に散らばる筈のエネルギーが全て1つの生命体に集まってしまったのだ。

そして、その膨大なエネルギーは世界の壁を突破し別の世界へと手を伸ばしだした。

無限に存在するとも言える世界だがそれでも有限である。

いつかは全ての世界の全てをその身に取り込み自らも脅かす存在となる可能性が出てきた事で神々は焦ったのだ。

だが現世に出現した生命を神の一存で消滅させる事は出来ない、災害や天敵を作る事でしか神は干渉する事が出来無いのだ。

そして、それは既に手遅れとなっていた。


いくつもの世界はヤツよって滅ぼされ神々は最後の方法に出た。

滅ぼされた幾つ者世界をメビウスの輪の様に繋ぎ合せその中へデビルバハムートを誘導して閉じ込めたのだ。

だが世界という物は少しずつであるが変革するように出来ている。

その変革の過程で新しく生まれるモノは必ずありそれをデビルバハムートは喰らう事で徐々にではあるが成長を続ける。

あくまで先延ばしにしただけである。


そして、それを倒す方法を遂に思いつかなかった神は人間と言う存在に目をつけた。

無い物を創造し生み出す神の想像を超えた生命体である人間ならばいつの日かデビルバハムートを打ち滅ぼす事が出来るかもしれない。

他力本願ではあるが神に出来る唯一の対処法であった。

神々の中でも賛否両論でこの案に対しては分かれたが他に方法が存在せず渋々納得した者の中から1人の神が名乗り出た。


「ならば私がスキルと言う形で人間に最後の希望として頼んでみよう」


神は現世に降り立てない、その為存在しないはずの時の狭間にその体を具現化させたのだ。

それが凪である。

そして、正義感の強い人間の夢の中へ訪れてその者へ力と引き換えにデビルバハムート討伐を依頼した。

神の贈れるたった一つのスキルは何人ものデビルバハムートへ挑んだ者を得て一つの理想的なスキルへと進化をした。

それがアホウ、亜空間連結次元魔法であった。

だが大き過ぎる力には対価が必要である。

それは魂の心・・・

アホウを使用する度に魂の心は磨り減り徐々に無くなっていく・・・

魂の心が魂の半分以上消費すれば魂はその形を保てなくなり肉体と共に崩壊する。

それがアホウの真実であった。





「オメガデーモンの攻撃を受けたのは対処法に使いすぎるとデビルバハムートとの戦いで魂が足りなくなるのを避けるためですよ」

「ならいいのですが・・・私は常に悩んでいます。これが本当に正しかったのか・・・」


全身に残っていた永続ダメージともいえるブラッドダメージを虫によって抜いたヒロシは神である凪に帽子を深く被って目を見せず告げる。


「あと少しで全て揃います。大丈夫、俺で終わらせますよ。それじゃ」


ヒロシは片手を上げてアホウでその姿を次の世界へ移す。

凪はそれを悲しそうな瞳で見詰めながら小さく呟いた。


「次のアホウ使いになれる素質のある人間はもう居ないのだ・・・お前が駄目なら世界と共に終わらせるしかない・・・頼む・・・」


その場にヒラリヒラリと1枚の紙が落ちた。

凪はそれを手に取り紙を見た。


「プッ・・・これは稟議書ってやつか?」


小さく笑いながらヒロシが用意したデビルバハムート討伐祝賀会の稟議書がそこに書かれていた。

内容は様々な今までであった者を招待しての立食パーティでその経費を全て神である凪に用意して欲しいと言う内容であった。


「アホウを使えば簡単に用意できるものばかりだと言うのにあいつめ・・・」


凪は小さく笑いながら3色の髪を神気で浮かせて力を使う!

木の橋だけだったその場に突如ホテルの広間の様な空間が出現した。


「あぁ、待っててやるとも!だから頼んだぞ第64代目最後のアホウ使い!」


最終決戦はもう直ぐである・・・

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