第9話 妖精達の○○屋─1
ネロの言葉を聞いても、ボックルちゃんは押し黙ったままだ。
遂に痺れを切らしたネロが、ボックルちゃん達に問い詰める。
「なぁ、分かっているだろう? 今このままじゃこの店は閉店に追い込まれてしまう。お前達が一番望まない結果になってしまうんだ。それでも──」
いいのか、と言おうとしたネロを遮って、ボックルちゃんが苦しそうに口を開く。
「分かってる……でも……それ以外に俺達がやれることは無いんだ……」
「……だとしたら、店を畳むべきだと僕は思う」
「それは出来ない! 俺達は背も小さくて、人の倍は仕事にかかる時間が多い! そんな俺達を雇う会社は無い……店を畳んだら、稼ぎ口が無くなってしまうんだ……」
私は言葉を失っていた。
私よりもずっと体が小さくて、可愛い可愛いと言っていた彼の肩には、とてつもなく重いものが背負われていた。
肩を震わせるボックルちゃんに「大丈夫?」と言ってきょうだい達が触れる。そのきょうだい達だって、ボックルちゃんの重みに成ってるんだと思うと、私も苦しかった。
その時、私はふと疑問に思った事があった。
「あのさ、さっきから解決策の事ばかり考えてるけど──」
突然口を開いた私に驚いたのか、皆一斉にこちらを振り向く。思わぬ数の視線を受けて、私は黙ってしまった。……コミュ障の弊害がここで出てしまった。
ネロが「続けてくれ」と言って、私を促す。私は頷いて、ようやく次の言葉を発した。
「こうなってしまった原因ってなんなの? そこが私はイマイチ分からないんだけれども……」
「原因……って言われると……」ネロが言いながら首を傾げる。
「……確か最初は青果店を開いたんだったっけ」
ボックルちゃんがポツンと呟く。
「そうそう。でも青果店は既にあったから、差をつけるためにお肉も置いて……」
「雑誌が買えると便利だと思ったから雑誌も置くようになって……」
「兵士には救急用品が売れるって聞いたから、薬品とかも置き始めて──」
「ちょ……ちょっと待った! タンマ!」
続けて口々に話始めたきょうだい達の言葉を、ネロは手で制する。
「お前達要するに……あれもこれも手を広げたら、こうなってしまったって事か?」
「そういうことに……なるな。うん」
ボックルちゃんの答えに、ネロは頭を抱える。
「お前ら……それじゃ勝手に自滅するだけだぞ? さっきも言ったが、この商店街には色々な道のプロが大勢いる。そしてそれぞれに合った店も開いている。お前達が店に置いてある商品は、全てこの商店街で事足りるんだからな」
確かにこの商店街には、青果店も精肉店も本屋も薬局もあった。
「そもそも第一、なんで商店街にそんな店を開いてしまったんだ?」
「それは……都会の土地は高いから手が出せなくて、俺達の所持金で買えたのがここだけだったんだ」
「所持金? 土地を買う? お前ら元からここに居たわけじゃ無かったのか?」
「あぁ、俺達は元々、森の妖精だったんだ」
「森の妖精!?」
突然のカミングアウトに、私は激しく反応する。実を言うと、私は昔から妖精とかそういった類いが好きだ。森の妖精というからには森にいるもんだと思っていたのだが……
「なんで森の妖精が商店街で商売してるのよ!?」
「それは……色々事情があって……」
「事情って? あと舞は席に座れ。きょうだい達が怯えてんぞ」
私が席に座ったのを確認してから、再びボックルちゃんは口を開く。
「俺達は元々、ちゃんと森に住んでたんだ。でも、そうもいかなくなって……」
ボックルちゃんの声がトーンダウンしていく。
「そうもいかなくなったって……何があったんだ?」
「……俺達が住んでた森は、レムレスの森だったんだ」
その言葉を聞いて、ネロが目を開いたのが分かった。でも、レムレスの森なんて初めて聞いた私は、ピンとこない。
それに気づいたのか、ネロが私に捕捉説明する。
「レムレスの森ってのは、ここから五キロほど離れた場所にあった森の事だ。そこまで大きくは無かったがな」
場所に──あった? 何故過去形なんだろう?
続けて言ったネロの言葉に、私も同じように目を見開いた。
「レムレスの森はもうこの世に存在しない──森の木が全て、人間達の手で伐採されたからだ」
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