化本シリーズ(300字SS)

歌峰由子

第1話 夜旅(ナイト・トラベル)



『Night Travel』



***


夜。本を開いて僕は旅に出る。


竜に乗って空を舞い、宝石の谷を歩く。

聖剣で怪物を倒し、呪文を唱えて魔法を放つ。

馬で戦場を駆け抜け、密林へ、雪原へ、花畑へ。

干肉と雑穀のスープ、山鳥の香草焼、葡萄酒や葉巻も嗜んで。

旅の間、僕は何でもできる。


でもひとつだけ約束が。


ひとつ旅を終えたら必ず明かりを消すこと。

破ると魔法が解けて、二度と旅に出られない。



***



ある日、とうとうページの終わりがきた。

悲しむ僕の目の前で、空白のページに文字が。


『あなたの物語を書いてください』


僕はペンを取った。

もう葡萄酒も飲めるし煙草も喫える。

空想と経験を詰め込んで、物語をひとつ。書き終えると本は消えた。


次の世界の、誰かの枕元へ旅立ったのだ。




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お題:「本」

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