I - 03
表に出ると、外の風景は変わらずだった。
ここに着いてから五分しか経っていない。時間の疎密が狂っていたような心地がする。玄関を出て屋根を見上げると、変わらずに二階部分の庇が突き出ていて、やはりオレンジ色が闇の中で映えている。
「あとは破錠だけ見せる」
男が言い、俺が持っているバールを指で示した。
俺からバールを受け取ると、男はドアの縁をぐるりと見てから蝶番二か所を指さす。ここと、ここを壊す。男がジェスチャーし、蝶番の傍、ドアと外枠の間にバールの先を捻じ込んだ。そのまま、てこの原理で力をかけ、二、三度揺らす。バールの先がドアの縁を掻き、塗装されていた深緑が剥がれ落ちて金属の銀色が細く覗いたかと思うと、短く音が鳴って蝶番が簡単に外れた。外開きでこのタイプなら、バール一本でなんとかなる。そう男は言い、ドアを軽く外して見せた。
ドアの向こう側では炎が大きくなり始めているが、何も伝わってこない。
「以上。あとは適宜勉強しろ」
それから、何事もなかったように車に乗り込む。
車に乗り込んでまた運ばれる。
右から左。左から右。
中学生一人、名前も歳も職業もわからない男二人を載せた車が帰っていく。俺を降ろすための目的地に近着いていき、車はエンジン音を唸らせることもなく、静かにゆっくりと減速しはじめる。
「金は明日だ」と男は言った。「名前は知らねえけど、連絡役の女がいるから、あとは電話してくるのを待ってりゃいい、放火の興奮で奇行に走らず家に帰って寝ろ。友人、知人、女には会うなよ、興奮状態だのなんだの、気づかねえとは限らねえからな。じゃあな」
別れ際の挨拶に何が適しているのかわからず、俺はかろうじて言う。
「じゃあ、また」
「また、はいらねえ。これっきりだ」
じゃあな、とだけ男はもう一度言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます