私の悪足掻
@kounosu01111
第1章
私が離婚して二年目の夏の八月二十九日がやってくる。今では彼らも生活が楽になったはずだ。
志歩がどこかの会社へ入り工業デザイナーになって、三人の子等は思い思いの会社で働いている。
長女幸穂が会計事務会社に入ってもうすぐ十年になる。中堅の働き手になっている。私の予想では、彼女は一生結婚はしないだろう。
私のことを「お父さんみたいに倒産した企業の社長さんがいるが、何とか再起している。お父さんのように朝からビールを飲んでいる人は、いない!」と言われてしまった。
東日本大震災のあった年の七月十三日の朝に、四人の親子は我が家を出てしまった。
私が「今年のお母さんの誕生日のお祝いに鎌倉へ行こう!」と言ったが、四人は何も言わず去ったのである。
当時長男は高知大学に言っていて、その仕送りで大変な思いを味わっていた。毎月姉から十万円ずつ仕送りを受けていたので、私はズルズルと、それに頼り続けていた。
それの因果か、今の私は姉の厳しい口調で「バカ」呼ばわりされている。
「お前の頭は既に認知症になったのか!」と大声で叫ぶ声が電話から聞こえるのだった。そんな言葉に向かって言い返す事は許されない。
昨日の盆めぐりに行った際、私は投資信託をしている証書を見せると、「バカ、こんな紙ぺら一枚見せてもらっても何も言えない!」と叱るばかりで、私は反論する言葉も見出せなかった。
私は長男に向かって手紙を出したりメールもするが、長男からの知らせは全くない始末である。
あの優しい息子がどういう人生を送るのか?と心配しているのである。
知行ヨ
おまえはこの世でささやかな私の光だった。
お前の光が俺の支えになった日もある。
宿命に転じようとしたのは
お前の光が
俺を照射していたからだ
満ちてくる潮の波間に
俺は時々お前の顔を夢見る
この春北上した鷗はまだ南下してこないが
俺にはお前の顔が見える
お前の行く道にあの孟宗竹の林と椿の花と桜の花を散らせる裏山
お前は一人でいくのか
私は、私を看取る意気を望んでいる
私が元気で働いていたときを思うと
あそこには真実があった
あそこには勇気があった
だがお前のたましいは
北の国に還り
今の俺に見えるのは
冬の海だけだ
私が放浪していた新潟の冬の海を思い出している
その海に私の姿は見えない
俺の孤貧ぶりは、淋しくもなく
悲しいものでもなかった
その命は苦しかったが
先に光が見える
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