第47話
古い形の車のボンネットに座る少年たちは、年齢にそぐわないらしからぬ正装をして大人びた顔をしている、というのも今日は卒業式であり、式の厳かさが、偉大なる国を背負う未来の大人らしく紳士たる振る舞いをしろと、つけつけと彼らに述べ続けていたからだ。人生に苦しんでも滞留することなく、一方面に闌けた人物を目指すのだ。 活喩
付け届けとして届いた小荷物を開けてみると、中には赤いハイヒールが入っていた。彼女の道義心はこんな破廉恥なヒールは履けないわ、と狼狽していたが、彼女の本心はサディズムが刺激されて、多情な女心に残忍さがむくりと顔を輝かせ、徒ならぬ笑顔を気づかず浮かべていた。 活喩
つっと地震が起きて慌てて走りだしたのではない、つっと貴重品をまとめたのでもない、腰を抜かしつっと椅子の下で丸くなり、つっと窓向の灯台を眺めていた。立ち居はままならず、立ち所には逃げられなかった。 換語法
友人が咄嗟に突っ伏したのは、彼らが町の正義の防衛者ではなく、また混乱を治める善玉菌でもなく、破壊と奪略に頭を犯された無法者だからだ。立ち迷う戦火の煙をうろつく警察共が過ぎるのを見て、わたしは立ち竦むしかなかった。 換語法
俺か? 真っ直ぐで平板な道じゃねえ、路面の整った綺麗な道じゃねえ、勾配のきつい葛折を超えてきたんだぜ、そりゃ景観は素晴らしいぜ。ああ、脱漏なく食料を手にいれて、端厳な顔の役人どもに没収されなかったぜ。 換語法
この行程がなかなかのつらさになると、背丈をはるかに超える荷を背負った少女には夙に知れていた。段々に切られた老人が路端に倒れており、山岳の少数民族はたやすく断滅されていた。 緩叙法
他人の土地から物を盗んでおいて、わずかも角目立たないと思うか、紐帯の絆の強さを思い知らせてやろうか、数日立たずに凋残して村にいれなくなるんだぞ。 緩叙法
マンドリンを抱えた楽士は教え子の少女に具に恋のかけひきを教えると、少女は悪くない笑みを浮かべて重畳の喜びを隠し、暢達に育った白い肉に紅みがさした。 緩叙法
男は藁人形を爪繰りながら顔のレンズ二つを絞り、本を読んでいる青年の姿を捉え続けた。醜陋な男の尋常でない眼は熟視して怨怨が込められている。 換喩
地面に埋められたパイナップルを除去することを仕事にしていた父親が先日爆発に巻き込まれて亡くなり、その子供が将来父親の意志を継ぐと言うので、つまされて、世間の羈絆を構わず、遠い国へ越した久闊の親類の財産をすべて与えたのだ。 換喩
彼は倹しい生活を長年続けていたら、常識のほどがわからなくなり、気づけば生まれたままの格好で暮らしていた。道を歩いていると肥え太った老人に声をかけられて救恤しようと言われ、窮状に陥っているわけではないと弁解して大笑いした。 換喩
小鳥に艶気があって、なんであの女にはそれがないのだ、見れば小鳥も笑っている、狭隘な心しかないあの女にはそんな高尚なものはないだろう、兢々としてばかりで、小鳥ほどの度胸もないのだ。 擬人法
上半身裸のまま長椅子に座る二人の老人がいたので、何か面白い艶種はないかと尋ねると、鰊が恋して鯖に色仕掛けした話があるというが、一人の老人の言動があまりに矯激なので、狭窄なトンネルへ向かって逃げ出してしまった。 擬人法
彼は眼を擦った。盥にしゃがんで体を洗う中年男性の毛が艷めいて見えた。自分の眼に騙されているのか。驕恣な自分の性情に天罰が加わり、匡正しようというのか。 擬人法
耳と情けは切るべし。つらつら社員の話を聞けば情が湧いてしまい、思い切ったリストラを敢行することができない。労働組合が狂騒を起こしても、怯懦な男に成り下がってはならない。 奇先法
面憎いから花束を贈ろう。鼻の曲がる臭気を放つグロテスクな毒花を。進行中の仕事が凝滞して、狂態を晒すように。 奇先法
精一杯の勢いで劈くべきだ。首を切られた悪魔が柔らかい涙を流すから。パンドラの筐底に隠されていた希望に嚮導されないよう汚さなくては。 奇先法
床に突っ伏している女性に言おう。旦那が亡くなり悲しみが全身を巡って何も手につかない時は、野山を低回するべきだ。忙しく働いて考える暇をもたせいないという言葉を信じてはいけない、自然を見ながら一人低回していれば、つい死にたくなり、そのまま旦那の処へいけるのだから。救いを求めて翹望してはいけない、あえて狂瀾の最中へ突っ込む気持ちが肝要だ。 逆説法
彼は町を襲った惨状を、人生を諦観しないために、両眼を刳り貫いたのだ。眼がなければ観ることができないから、希望を持って絶望することもない。為すすべなく凝立するばかりで、自分の心に虚喝せずに済むのだ。 逆説法
街角の集会に突っ込み大柄の女性は訴えた。看板掲げてぞろぞろ行進するよりも、家に返って大人しく自分にできることを考えなさい。好き勝手のはけ口でしかないお祭り騒ぎはただの娯楽でしかないから、物価高騰を底止させる効果などない。それよりも想像力を働かせて真面目に働くことが肝心だ。それこそ国の経済を支えて民衆の生活を潤すなによりの行動だ。極言すれば、集会を開いている全員が自業自得であって、曲直をはっきり行動に表して国を正すべきだ。 逆説法
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