彼女の秘密がとんでもなくて守れそうにない(短編)
黒狗
第1話 ドキドキ初デート その1
「はぁ、はぁ、はぁ、やばいっ、完全に寝坊だ」
額の汗をぬぐい、腕時計を見ると約束の時間をゆうに過ぎていた。
初デートだというのに遅刻するなんて、最悪すぎる。
昨晩はドキドキして眠れなくて、アニメ動画を朝まで見ていたのが仇となってしまった。
本当だったら俺のほうが先についてなきゃいけなかったのに。
如月さんきっと怒ってるよな。
と、デートすることになったのは、如月さんにあるお願いをされたからなのだが。
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それは昨日のお昼休みの出来事だった。
「恭介君にお願いがあるの」
このお願いがことの発端だった。
なぜこの時断らなかったのかと、俺はこの後激しく後悔することになる。
「それでお願いって?」
「商店街に新しくできたお店」
新しくできたお店というのは女子高校生向けの可愛らしい洋服を取り扱うブティック。
女子たちの間で話題になっていて、それはファッションに疎い俺の耳にはいるほどだった。
「あのね……」
如月さんは続きを言いにくそうにしている。
何が言いたいんだ……お願いときて、お店ときたら。
あっそうか、きっとお店に行きたいんだな。
「もしかして、そのお店に行きたいの?」
「うん」
「まさかだけど、俺についてきて欲しいとか?」
「うん」
まじか!?
この手のお店は敷居が高くて、足を運んだことがない。
「どうしようかな……」
お店の中は女の子でいっぱいだろうし、そんな空間にいたら窒息死してしまう。
俺が本気で悩んでいると、
「一人で入るの怖くて、恭介君についてきて欲しいの」
しかし俺にも行けるところと、行けないところがある。
いくら如月さんにお願いされても。
「お願い」
如月さんは目を潤ませ、手を合わせてお願いしてくる。
そんな顔されたって、俺はきっぱりと如月さんに、
「それじゃあ行くしかないね。俺に任せてよ」
「恭介君ありがとう」
如月さんに頼り人されて、テンションが上がった俺はついつい余計な事を口走ってしまう。
「如月さんのお願いならどこでもついて行くよ。天国でも地獄でも、試着室でも」
「はっ、恭介君何言ってるの。そこまでお願いしてない!」
目を細めて俺を睨む如月さん。
「冗談だよ!」
「嘘。目が本気だったもん。試着室でエッチなことしようとしてたでしょ?」
「いや、そんなことしないからっ」
「私が着替えてる時にとつぜん入ってきて、あんなことやこんなことをするつもりだったんだもん」
「如月さん、妄想しすぎだからっ」
「うぅー恭介君のバカっ、変態、エッチなことは駄目なんだからぁー」
後半は如月さんの暴走感が半端なかったが、エッチなこと駄目って言っておきながら結構食いついてくるよな。
ここは謝っておこう。
「如月さん俺が悪かったから、更衣室のことは忘れてくれ。ちゃんと付き添いするから」
「うん。エッチなことは駄目だからね」
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というわけで、10時にブティック前で待ち合わせすることになったのだが、俺は案の定寝坊してしまい。
新オープンしたブティックに猛ダッシュで向かっているのだ。
「はぁ、はぁ、この交差点を曲がればブティックが見えるはずだ」
デート前から汗だくだけど、これ以上待たせるわけにはいかない。
後で汗ふきシートでなんとかしよう。
交差点を曲がると、銀髪の女の子がブティック前に立っているのが見えた。
銀髪の女の子はふわっとした白ブラウスにドット柄のスカートをはいている。
俺はその女の子が如月さんと確信し、大声で呼びかけると、彼女は俺に向かって手を振ってきた。
よかった、怒っていない様だ。
それから俺は如月さんの前まで行き、
「はぁ、はぁ、き、如月さん待たせちゃってごめん」
「もぉー恭介君。遅い。待ち合わせ1時間も過ぎてるよ! 女の子を待たせちゃ駄目なんだから」
頬を膨らませて怒る如月さん。
ごもっともです。1時間も待たせてしまったのだから、怒るのも当然。
本来であれば遅刻のことを事前に連絡したかったのだが、如月さんスマホ持ってないんだよな。
「約束の時間になっても来なかったから心配してたんだから、本当に……心配してたんだから」
「本当にごめん。なんでも一つお願いきくよ」
すると如月さんは目をキラキラさせて、
「本当!? しょうがないから、許してあげる」
なんだなんだ、そのキラキラ感は!?
自ら地雷を踏んだような気がするのだが、気のせいだよな……
「それでお願いって?」
「あとでね、私に似合う洋服を選んで欲しいの。せっかく恭介君と来たんだから。恭介君に選んで欲しい」
「本気でいってる?」
「うん」
「俺ファッションセンス皆無だよ?」
「ファッションのことは……初めから期待してないから」
ガーン!!!
自分でもファッションセンスがあるとは思っていないが、こうきっぱりと言われるときついものがある。
俺が落ち込んでいる姿をみて、如月さんが、
「恭介君。そういうことじゃなくて」
「えっ、どういうこと?」
「ファッションセンスのことを言いたかったんじゃなくて、純粋に恭介君がいいなっておもう服を選んで欲しかったの。それだけで私嬉しいから」
「完全に勘違いしてたよ。わかった。一生懸命選ぶから。任せといて!!!」
一連のやり取りがひと段落し、ブティック店の中を覗くと、店内は女子たちでごった煮状態である。
これが秘密の花園というやつか。こんな異空間に俺は入れるのか
「恭介君、どうしたの?」
「いや、ちょっとこれは入りづらいなと」
「一緒に洋服見てくれるって約束したよね?」
「うーん」
「約束したよね?」
「……はい」
華奢な女の子のはずなのだが、言葉に威圧感を感じるのはなぜだろうか。
「それじゃあ、いこー」
如月さんはそう言うと、俺の手を握る。
そして俺は如月さんに連れられてブティックに入った。
店内を見渡すと洋服だけでなく、ネックレス、指輪などの装飾品も置いてある。
「わぁー。可愛いお洋服がいっぱいだね」
「如月さん嬉しそうだね」
「うん。こんな可愛いお店初めてだから、ドキドキしてきた」
初めてという言葉に違和感を覚えつつも、如月さんがはしゃぐ姿を見ていてるとなぜか懐かしい感じがした。
値段を見ると女子高生向けともあり、どれも可愛いのに数千円と手ごろな値段である。
混み合う店内を女子達をかき分けながら歩いていると、女子店員が俺たちの目の前に立ちはばかった。
「そこの不審者っ。その超絶可愛い子から手を離しなさい!!!」
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