希望の糸紡ぎ
藍田弘子
第1話
♦︎第0章
大丈夫……、私は大丈夫…。あなたが生きているという希望があれさえすれば……。だから私はもう行くね。あなたに…また会えることを信じて。
「希望」を忘れないで………。
♦︎第一章
「リラ、リーラ、起きて‼︎」
カーテンの隙間から薄緑色の光が差し込む朝、いや今は昼だ。グリーンカーテンはよく働いてくれているため、平均的に気温が高い「カトリス」であっても快適に過ごすことができている。先ほど「リラ」と呼ばれた、黄色味がさした美しい銀色の髪を肩の辺りまでのばしている、見た目十四〜十五の少女は、同じく見た目十四〜十五の少年に肩を揺すられ、突っ伏していた机から身を起こした。
「アミ…、どしたの…?」
少年の名前は「アミ」と言うらしい。
「アミクローゼッ!ちゃんと本名で呼んで‼︎」
アミクローゼだった。
「もう昼休憩終わるから呼んで来いって、サラ姉が言ってたから呼びに来たんだよ。」
「んー…。分かった、先に行ってて。」
リラはアミクローゼにしっしっと手をはらった。アミクローゼは少しむっとした表情で
「私は犬じゃなんだぞ。」
と言った。
「でもあんた戌年じゃん。まあ私もだけど。」
いつもこの流れから喧嘩になる。だが今日は違かった。今日はアミクローゼが「はいそうですね」と言って終わった。ーー何故こいつを好きになってしまったんだろうーー
リラはアミクローゼを、少なくとも「異性」としての意識はしていない。だがアミクローゼはリラに恋心を抱いている。たまに何故好きになったのだろうと疑問に思うが、惚れてしまったというのはそういうものとサラ姉が言っていた。
サラ姉というのはリラとアミクローゼよりも十つほど年長の女性だ。本名はサラサ・グリファーノという。リラとアミクローゼは、戦争のさいに親を亡くした子らが生活し、働き、勉強するといった施設にあずけられている。サラサはそこの館長だ。昔はもっと歳をとった館長がいたのだが、戦争に行ったままそれきりで、とりあえずの館長として働いている。サラサ自身も両親を子供の頃に亡くしており、この施設に預けられていた。同期もいなく、ずっと孤独だったろうに明るい性格で、誰よりも孤児たちのことを思ってくれている。
「リラ呼んできたよ。」
アミクローゼがサラサに告げた。
「ご苦労様。アミも仕事場に行きな。」
「だからアミじゃなくてアミクローゼって、何度言えば分かるんだよ。」
「ごめんごめん。でもアミの方が呼びやすいしなんか可愛いし。」
アミクローゼはさっきと同様にむっとして仕事場へと向かった。
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