第29話 五人で登校

「行ってきます」

「お母さんいってきまーす!」

「いってきまー!」


 おはようございます、千佳です。

 昨日行われたメグちゃんと花ちゃんの入学パーティーを無事に終え、今日から念願の妹たち一緒の登校が始まります。

 左手にはメグちゃんを。右手に花ちゃんを。

 仲良く三人で手を繋ぎながら、すれ違うご近所さんたちに挨拶をして進んでいきます。


「おはよう千佳ちゃん、メグちゃん、花ちゃん」

「おはよ~さん!」

「おはよう愛ちゃん、湖月ちゃん」

「おはよーございますっ!」

「おはー!」


 道の途中で愛ちゃんと湖月ちゃん、そして近くに住んでいる子たちと引率役の保護者さんと合流して、皆仲良く二列で歩き出します。

 小学生はまだ危険なことが直ぐ分からないし、引率の大人がしっかりと見守らないといけないので、当番制で保護者さんたちが受け持ってくれています。

 とは言っても登校時間は十分、合流地点から七分ほどなので、直ぐに学校に着いてしまうのですが。


「メグちゃん、花ちゃん、手を上げて渡るんやで~!」

「はーい!」

「あーい!」


 横断歩道に差し掛かった時、湖月ちゃんが一歩前に出て手を上げました。

 それに倣うように二人が手を上げて、一緒に登校している他の子たちも手を上げていきます。

 そんな様子を見て思わず笑ってしまいます。


「ふふっ、湖月ちゃんも先輩だね」

「うちも千佳ちゃんみたいなおねーさんになりたいからな!」


 湖月ちゃんの理想は私のようなので、しっかりとお姉ちゃんらしさを見せないといけませんね!

 そして湖月ちゃんの言葉に、負けじと声を出したのは。


「あ、あいもお姉ちゃんだから、二人とも頼ってね?」

「ありがとー! 湖月ちゃん!」

「ありあとー! 愛ちゃん!」

「……あいも千佳ちゃんみたいに、お姉ちゃんって呼んで欲しいのに」

「うちもやで……」

「あ、えっと、二人ともドンマイ」


 普段遊んでいる時からお姉ちゃん呼びでは無かった二人は、しょんぼりと肩を落としました。

 ふっふっふっ、お姉ちゃんの座はそう簡単には渡さないよ!


 皆で手を上げながら横断歩道を渡れば、もう校門は目の前。

 昇降口では一年生の先生たちが靴の履き替えを見守っており、私たちはここから学年ごとに分かれることになります。


「メグちゃん、花ちゃん。ここからは二人でも大丈夫?」

「うんっ!」


 元気なメグちゃんの声。


「ほ、本当に? お姉ちゃん手伝ってあげようか?」

「だいじょーぶー!」


 いつも通り無邪気な花ちゃんの声。


「いや、やっぱり」

「あーもう! 千佳ちゃん過保護すぎや!」

「千佳ちゃん、二人を信じてあげよ?」


 むぅ……まだ二人はお姉ちゃんの手が必要だと思うのですが。

 湖月ちゃんと愛ちゃんに引っ張られて、私は天使から離されていきます。


「くっ、わ、分かったよぉ! じゃあメグちゃんも花ちゃんも、何かあったら私に言うんだよ!! 今日は終わりの時間が同じだから一緒に帰ろうね? 先に帰っちゃやだよ?」

「んー! 分かった!」

「分かってるよお姉ちゃん。昨日から何回も聞いてるもんっ!」


 なんだか、思っていたより妹二人がサッパリしてるんですが……。

 お姉ちゃんちょっと寂しいよ?


「そ、そっか。それじゃあ、二人とも頑張ってね……」

「うい!」

「頑張る!」


 これが成長していく子を見る親の気持ちなんだね……。

 私の寂しい気持ちについぞ気付かないまま、二人は手を繋いで一年生の靴箱へと歩いて行きました。

 私も少し、妹離れしないといけないのかもね……。

 妹の成長に嬉しさと、ほんのちょっぴりの、本当に少しだけの寂しさを感じながら、私は靴箱へと歩いて行くのでした。


「――ちーかーちゃん? そっちは一年生の靴箱やで~?」

「信じてあげようよ、千佳ちゃん……」

「ぬぉーッ!! わ、私はッ、二人の勇姿を見ないといけないんだぁ!」

「あかんで! って、力つよっ!」

「ち、千佳ちゃん! 駄目だよー!」


 抱きしめるようにして止めようとする湖月ちゃん、前に回ってきて抱きついてきた愛ちゃんは頑張って私を止めようとします。

 ぬぐぅっ、しかし、お姉ちゃんとして愛しい妹たちの成長を見守らなければ!

 くそ、私が一年生だったら!

 この学校に留年制度は無いのですかッ!?


 ……騒ぎに気付いてやって来た九重先生に止められるまでこの攻防は続くのでした。

 因みに、天使たちはとっくに教室へと行っていたそうです。

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