第30話 人は見かけによらない

 始業日が過ぎて数日。

 そう。それはたった数日、しかしあまりにも苛烈な闘いの日々だった……。

 休み時間ごとに一年生のクラスへ様子を見に行こうとする私と、体を張ってそれを止めようとする愛ちゃん湖月ちゃんを筆頭としたクラスメイトたち。

 あぁ、一度も見に行けなかった。お姉ちゃんとしての役目が……。


 まぁ家で話を聞く限りメグちゃんと花ちゃんにも仲の良い友達が出来たみたいだし、その中にはしっかりした性格の子もいるみたいだから安心かな。

 まぁ隙を見つけたら見に行きますけどねッ!


 閑話休題それはともかく。二年生になってから行われた席替えによって、私は廊下から一番遠い窓際になりました。

 横には湖月ちゃん、後ろには愛ちゃんが設置され私の包囲網が完成されています。

 クジ引きなんだよね。完全に運試しのクジだよね。どうして湖月ちゃんはそんな悪そうな笑いをしているのかな?

 後でちゃんとお話聞かせてね……?


「ちょっと何言っとるか分からんなぁ……」

「こ、湖月ちゃん。正直に言った方が」

「愛ちゃんここで諦めたら試合終了やで!」

「し、試合?」

「はいそこ二人。聞こえてるからね?」


 因みに、この学校では六年間同じクラスで過ごすことになります。

 愛ちゃんや湖月ちゃんたち、そして担任の九重先生とも離れる事はないので、安心して新学期を迎えられます。

 他のクラスの女の子たちがこっちに移りたいと嘆願しているそうですが、どうしてでしょうかね?




「次の時間は体育だね」

「せ、せやなぁ……」

「どうしたの湖月ちゃん? なんで距離取ってるの?」

「あ、いや」

「もう怒ってないから。ちゃんと反省してくれたんでしょ?」

「い、いえすまむっ!」


 冷や汗をダラダラと掻いている湖月ちゃんに近付いて、肩に手を乗せる。

 そんなに怖かったかな、私のお説教?


「千佳ちゃん、早く更衣室に行こ?」

「そうだね愛ちゃん」


 え? 愛ちゃんもお説教したのかって?

 してないよ。だって愛ちゃんは本当に幸運で私の後ろの席を手に入れたんだもの。

 実は勝負師の才能があるのかな……?


「それじゃあ行こっか」

「せ、せやな~」

「うん!」


 三時間目の国語の授業を終えた私たち女子は先生と共に更衣室へ向かいます。

 この学校は施設がしっかりしているので、体育館に室内プール、音楽室はホールのようになっていたりします。

 理想の学園を作りたいという理事長様さまですね!

 入学式の時にチラッと見えた理事長さんはとてもかっこいいクールな女性の方でしたので、女性目線でも色々意見を出してくれているのかも。


「先生きれいー!」

「髪も艶々~」

「いい匂いです先生!」

「ちょ、ちょっと、嗅がないでください!」


 やってきた更衣室では私たち生徒だけでなく先生もジャージへと着替えるので、九重先生の身体は私たち女の子の興味の的に。

 まだ二十代前半の九重先生。背は高めで胸も大きく、スタイルがいいので皆が秘訣とかを聞いたりしています。

 小学二年生なのにませてるなぁ。


「――で、九重先生。胸はどうやったら大きくなりますか?」

「ち、千佳ちゃんもですか!?」


 いや、やっぱり気になるじゃん。

 どうせならかっこいいスタイルに成長して、皆に一目置かれたいし。

 いつまでも頼れるお姉ちゃんでいたいからね!


 そうしてかしましい着替えが終わったら先生に戸締りをしてもらい、体育館への移動を開始します。

 未だ先生にスタイルの話を聞いている愛ちゃんは置いておいて、湖月ちゃんと世間話をしながら歩く。

 すると突然、後ろから衝撃を受けて私はよろめいた。


「ちょっ、なにッ!?」

「……見つけた」

「あれ、確かあなたは、莉里ちゃん? なんで小学校こんなとこに?」

「……」


 私の背中に抱き着き、無言で頭を擦りつけてくる小さな女の子は入学式の時に出会った莉里ちゃん。

 でも、入学式では保護者席にいたし、まだ幼稚園児だったはず……?


「なんや、また千佳ちゃんは女の子引っ掛けてきたんか~?」

「違うよ!? 人聞きが悪いな!?」

「……私、三年生、だから」

「うぇ!? え、莉里ちゃんって先輩だったの!?」

「……うん」

「先輩やったんか~。うちは梅田湖月、よろしくな~」

「……三枝莉里、よろしく」


 驚くことが多すぎて頭の整理をしている私を放置して、二人はいつの間にか自己紹介を済ませ仲良く話していました。

 いや、相変わらず無口な莉里ちゃんは殆ど聞くこと専門だけど。

 というか湖月ちゃんは先輩って聞いても萎縮しないんだね、コミュニケーション能力が高い子だ。

 と、とりあえず、莉里ちゃんは私よりも年上だったんだ。悪い勘違いしちゃったよ。


「莉里ちゃん、いや莉里先輩とお呼びしたほうがいいですか?」

「……寂しい」


 年上ということで敬語にしたら、途端に莉里ちゃんが悲しそうな表情になりました。

 眉はへの字に垂れ、瞳はウルウルと涙をが輝いています。

 それを見た私と湖月ちゃんは慌ててなだめ始めました。


「ごご、ごめん! じゃあこれからも莉里ちゃんって呼ぶから!」

「うちも莉里ちゃんと友達や! 湖月って呼んでな!」

「……嬉しい」


 パッと明るい笑顔に戻った莉里ちゃんを見て、湖月ちゃんと二人で冷や汗を拭う。

 言葉は少ないのに表情は多弁な子だこと……。

 そんなことをしていると、私たちの耳にチャイムが聞こえた。


「やばいで千佳ちゃん! はよ体育館行かな」

「そうだね。莉里ちゃんも早く教室に戻ってね」

「……ん」

「ほなまたな~莉里ちゃん」

「……またな~」


 湖月ちゃんの関西弁が気に入ったらしく、真似をするような口調で莉里ちゃんは戻っていく。

 その光景が可愛らしくて二人で笑っていたが気付いた時には既に時遅し、当然体育には遅れていくことになった。

 九重先生の怒り方は可愛かったです。また聞きたいな、めっ!

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