第22話
赤鬼が完全に煙と化した。その刹那――。
シュッ!
と君太の首筋に鋭い感触が走った。
狐のお面の刃の一閃。
速い。見切ることはできない……!
君太は動かなかった。動けなかったのだ。動く必要がないのは幸いだった。
「白日眼の使い方を理解しているようだな……」
狐のお面から、声が漏れた。
やはり、試したのだと君太は悟った。
僕が、こいつの動きを先読みしているかどうかを。動かなくて正解だったのだ。下手に動けば、今の一閃で首と胴体が離れていたはずだ。
「だが、白日眼の真の力を理解していないようだ……」
「真の力……?」
「今のお前では使いこなせまい……。ならば、わしがもらうまで……」
狐のお面が刀を左手に持ち替え、右手を君太の左目に伸ばしてくる……!
僕の左目をえぐり取ろうとしている!
君太は下段に構えた刀を一気に切り上げた。狐のお面の右腕を狙って!
またしても手ごたえがない!
いや。今度は完全に外している!
狐のお面は、空中を浮遊するように、君太の刃が届く範囲の外に後退していた。
突然、狐のお面の姿がかすむ。
君太は、ギョッとした。
狐のお面が複数、君太の周りを円形に取り囲んでいるのだ。まるで、分身したかのように。
こやつも人間ではなく妖魔なのか?
一瞬そんなことを考えたが、すぐに違うと理解した。
高速移動しているのだ。
君太の周りを円状にグルグル回っている。あまりに速いので、残像が見えているだけだ。
だけど、そうと分かったところで、君太には、どうすることもできない。
狐のお面がどこにいるか、完全に見切れていても、奴に、刃を浴びせることができなければ、何の意味もない。
相手の動きが読めても、君太の剣術が、相手の動きよりも速くなければ、相手を制することなどできるはずがない。
君太は、狭い檻に囲まれた動物のように、ただ、そばに立ち尽くすしかなかった。
幸いだったのは、狐のお面には、殺気がないことだ。
どうやら、僕のことを生かして捕まえたいらしい。捕まえた後で、じっくりと、 僕の左目――白日眼を取り出そうと考えているに違いない。
そのためには、きっと、僕を生かして捕まえなければならないのだろう。
本気で殺すつもりなら、既に、君太の命はかき消されているはずだ。
今や、君太は、完全に狐のお面が支配する檻の中に閉じ込められて、指一本動かすことができずにいた。
下手に動けば、その時が僕の最後の動作になるに違いない。と理解していた。
見えていたって何の意味もない。こいつが僕の都合の良いように動いてくれるわけではないのだ。
僕が差し出した刃に、こいつが自ら飛び込んでくれるわけではないのだ。
「何も出来ぬようだな……。里見君太よ……。腰抜けの世界で暮らして、自分の力も忘れてしまったようだな」
「僕の力? 何のことだ?」
「知らぬならば、それでよい……。お前をとらえて連れてゆくまで……」
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