第20話

 立ち上がった時、既に、囲まれていた。

 踊り場から上に続く階段。それに下に続く階段。その両方に、刀を構えたやつが、一人ずつ立っていた。

 奴らと同じだと直感する。佳恋と出会った日に、いきなり襲い掛かってきた鬼の一族とやらだ。

 笠を被っていなかったので、顔もはっきりと見えた。

 僕たちが想像する鬼の顔と大差ないことに意外な感じがした。角があるし、人間に比べて吊り上がった眼をしていて、瞳孔が赤い。想像と違うのは、髪だけ。パーマをかけたようなもじゃもじゃ頭ではなくて、長髪をオールバックにしていて、灰色だった。

 下から迫る鬼は赤い肌の鬼。上からは、青い肌の鬼が迫る。

 青鬼の後ろにももう一人、武士の格好をした奴が立っていた。刀は腰に差しているもののまだ抜いていない。

 狐のような白いお面をつけて、山岡頭巾を被っている。容姿は隠されているが、着物の袖から覗く腕の肌は、人間のものだと分かる。

 こやつが、襲撃者のリーダーか?

「何者だ!どうして、田沼伯父さんたちを殺した!」

 狐のお面に向かって、叫んだが返事はない。二体の鬼の包囲がますます狭まる。


 どう立ち向かうか……。

 君太は即座に作戦を決めた。

 二体の鬼が、刀を上段に構えて、上と下から一斉に迫ろうとする刹那――。

 君太は、上から来た青鬼の膝にタックルを食らわせた。

「あっ……!」

 という小さな悲鳴を漏らした青鬼は、君太に足をからめ捕られている。バランスを崩すと、踊り場に向かって、頭から突っ込んだ。

 ドシーン!と、間抜けな音が響いたとき、君太は、青鬼の手から、刀をもぎ取っていた。

 下から迫った赤鬼は、君太が刀を手にしたのを見てひるんだようである。

 さらに君太が、刀を一閃させる。単なる威嚇だ。

 だが、赤鬼は、転げ落ちるように、階段の一番下まで、後退した。顔には、畏怖の色が浮かんでいる。

 鬼って、見かけによらず、臆病だな……。

 君太は笑みを浮かべる余裕も持てた。

 踊り場で気絶している青鬼を飛び越え、君太は一気に赤鬼に迫った。刀を正眼に構えると、赤鬼は、「ひいっ……」と小さな悲鳴を漏らした。同時に、ササッと素早く後退する。

 その時、狐のお面の武士がゆっくりと階段を降りてきているところだった。

 狐のお面の下で、そいつが、赤鬼に針のような視線を浴びせているのを君太は感じ取ることができた。

「逃げるな……。戦え……」

 土蔵の錆ついた重い扉が何十年ぶりかに開け放たれたかのようなかび臭い声だった。

 底知れぬ暗闇の洞窟の奥から響いてきたような気がして、君太も、思わず、身を震わせた。

 その声が起爆剤となったのか、赤鬼が決死の眼差しを浮かべていた。額からは汗が噴き出している。まるで、狐のお面のやつに操られているかのようだ。



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