第8話

「私、今日はお忍びで、腰抜けの世界に出てきたんです。お忍びの目的の一つは、一つは上野動物園でパンダの赤ちゃんを見ること。それに、ホットドックを食べること。二つとも、果たすことはできなかったけど、ホットドックを食べられただけで満足ですわ。何しろ、一人で、腰抜けの世界に出たのは初めてですから」

「ぴゅん太はお供じゃないんですか?」

「ぴゅん太は、勝手についてきただけですわ。腰抜けの世界に出るためには、桜田門宿を通らなければならないんですけど、ぴゅん太は、その宿に住み着いているんです。追い払っても勝手についてくるんです。本当に困ったちゃんですわ」


 困ったちゃんは、またしても、猛然と駆けつけてきた。

「私が、ホットドックを食べているときは静かにしていなさい。さもないと、刺すわよ」

 刺す……? 刀で刺すということ? 見かけによらず、物騒なことを平気で言う子だな。

 君太も、さすがにブルッと身を震わせた。

 ぴゅん太はそれ以上に震えていた。ガタガタガタガタと。

「お、おれん様。大変です!お急ぎ、お隠れください!追手が迫っております!」

「まあ。私が勝手にこっちに来たことが父上にばれてしまったのですね。仕方ありません。帰りましょう」

「そ……、そうではありません!明らかに、おれん様の命を狙う者ども!」

「まあ、何者です?」

「妖魔でした!こっちに向かって歩いてくるのが見えました!きっと、おれん様を探しているんです!」

「妖魔なら、父上が派遣した者ではないでしょうね。でも、私は妖魔に、命を狙われる覚えはありませんよ。ぴゅん太の考えすぎでしょう」

「いいえ!奴らは、殺気立っていました。明らかに、おれん様の命を狙っています!ああっ!来た!」

 ぴゅん太は、ガタガタと身を震わせながら、佳恋の足にしがみついた。

 妖魔だって?

 妖魔というからには、猛獣みたいな奴か?

 ぴゅん太の視線をたどって、君太は振り向いた。


 猛獣らしきものはいない。

 だが、この場所にはふさわしくない者が三名いるのを君太も認めた。

 三人とも、薄汚れた着物と袴を身につけていて、一本の刀を腰に差していた。ささくれ立った編み笠を深く被っているので顔は見えないが、君太たちの方に意識を向けていることは、武芸の心得の無い君太でもわかった。

 ちょうど、時代劇で言えば、浪人者と呼ばれる格好だろうか。

「妖魔って?」

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