―地上にて―

 爆発の音と衝撃に、意識が揺り動かされた。

 あたりが炎に包まれるなか、ふと、私の意識は浮上したのだった。――生きている。はじめに、そう思った。

 いつのまにか私たちは地上にいた。バラドとともに砂の上に倒れ伏すなか、地上のあちこちで噴き上げる炎の気配を感じていた。

 私は自分の左足に目をやり――それから、私を抱き締めて倒れ込む彼の顔を覗き込んだ。短い黒髪に、砂と泥がこびりついていた。

「――ようやく、分かった」

 彼はひどく疲れた声でつぶやき、私の耳もとにある言葉を囁きかけた。それを聞いて、私は皮肉たっぷりに笑い――彼の頬を撫でた。

「まったく、安い愛ね」

 そして彼の肩を掴んだ。身を起こそうとしてみるものの、うまく行かない。視界がゆがみ、眩暈がひどくなるだけだった。

 それでも、先程よりは随分調子がいい。おそらく、《黒鳥》が低迷していた肉体の機能を補っているのだ。

「逃げましょう、バラド」

「……ああ」

 言葉少なに頷いて、バラドが立ち上がろうと身を起こす。そして苦痛に顔をしかめた。「右足を痛めたんだ」そう呟く。

「それでもよ」

 山で別れたときから、彼は歩きにくそうにしていた。推測するに――地雷を踏んだとき、《リエービチ》の破片が彼の足に突き刺さったのだ。そのときの傷が悪化しているのだ、と冷静に頭のなかで判断する。

 それでも、今は彼に歩いてもらうしかない。たとえ走れずとも。

 私は彼に抱き抱えられながら、一本の足で地に立った。

 そして地平線を見渡し――巨大なのようなそれを見つける。と同時に、頭の奥に何かが語りかけてきた。

 ――いらない、と心のなかでつぶやく。

 もやが揺らいだ。頭に響く「声」はとても大きくて、私の返答などすぐにかき消されてしまいそうだった。それでもあきらめず、いらない、とくりかえす。

 輪郭が揺らいだ。

 そして次の瞬間には形をくずし、薄らいでくる――ほとんど視認できなくなるのを待って、寄り添うように立つバラドへと視線を向けた。

 そして、微笑みかけた。

「走って、バラド。私の代わりに」

 右足のつけ根にへばりついた《リエービチ》の破片が、風に煽られ、キラキラと落ちて行った。炎の明かりに透かされて、虹色に輝くそれ。

 背後から迫りくる炎の気配を感じ、私はバラドにしがみついた。

「私を生かして」

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