剣と魔術と狩人と──一般的旅行譚

☤牛せんせー⚖

サンプル「Hello, Variants」

[第一話]

 「…………やめ……ろ……」

 彼が、喰われている。紅い血が噴き出し、彼の首が地面に転がる。“奴”はゆっくりとこちらを向き、私に大きな牙を向け、その大穴に私は──


 ***


「おい、お嬢さん、そろそろだぜ。」

 初老の男の声で目が覚めた。少しうたた寝をするつもりが、ぐっすり眠ってしまっていたらしい。

「よーし、ここだ。ここから先は行き先が違うんでな。じゃあなお嬢さん、達者でな」

「ああ、ありがとう、助かりました」

「ここが"ガイア"……」

 四方を山と海に囲まれた、青々とした緑が目に優しいところだな……。東洋風建築の、屋根が瓦でできている家が立ち並び、碁盤の目のように区分けされた四角形の街の中央には、ほかの家々の3、4倍ほどはある建物がある。……沢山の家屋があるが、それにしては……

「おお!アンタがハンターか!」

 振り向くと私の倍ほどはあるだろう大柄な男が薪を抱えてこちらへ向かってきていた。ガッシリとした体つきに柔らかなライトグレーの目。短く刈り込まれた髪と無精髭はところどころ白くなり始めている。彼の背負っている、身の丈ほどあるだろう大剣は──

「依頼で来てくれたハンターはアンタのことだな?俺が依頼主のギルだ」

「はじめまして、ハインケスです。さっそく依頼について――」

「まあそう焦るなよ。まずは宿の確保だろ?案内するよ」

 ……うん。確かに少し急ぎすぎだったかな。話を遮られるのは好きではないが、おとなしく彼の案内について行く。

 町とも村とも言い難いそこは、やはり人が少ないな……いない訳では無いけど、なんだろう、怯えているような気がする……

 ギルに連れられて訪れた宿は、東洋風の木造建築だった。ところどころ、壁の塗装が剥がれて瓦には苔がむしていたが、内装は外見とは裏腹に清掃が行き届いており、清潔感のあるしっかりとした旅館になっている。

 部屋に案内されてしばらくすると、東洋のホテルのオーナーらしき女性が挨拶に来た。軽く設備の説明を受けた後、私たちは武器と鎧一式以外の荷物を部屋に置き、宿を後にした。

「あの、ギルさん、そろそろ依頼の――」

「なぁハインケスさん、腹減ってねぇか?」


   ***


「さて、それじゃあ依頼の件なんだが……」

 ギルが依頼の話を持ち出したのは、結局夕刻の、日が傾き始めた頃だった。今は彼の馴染みの武具屋と狩猟道具屋を案内され、装備の点検を受けている間に菓子屋を巡り、本日3軒目の菓子屋で草団子を食べているところだ。……美味しいなこれ。モッチリとした食感にヨモギのあおい香りが鼻に抜ける――

「おい、そんなに美味しかったか?」

「あっ……すみません。どこまで話しましたっけ」

「今回の依頼は、度々街に降りてくる獣――《バールフ》の討伐だ」

 バールフ――確か、大柄の熊のような外見に狼の頭を持ち、5、6頭の群れをなして狩りをする牙獣種、だったか……。なるほど、アイツは昼行性だからこんな時間になってから話をしたのか。しかし――

「新米ハンターには手強いターゲットですが、わざわざ別の街からハンターに依頼するほどではないのではないですか?」

 この店で4本目の団子を食べていた彼が、急に顔を曇らせたところを見るに、ただ事ではないのだろう。

「ああ……本来は、な。だが、この個体、体長はなんと7m。確認しただけでも20頭の群れを率いていて、それなりに経験を積んだハンターでも太刀打ち出来ねぇんだ。それに、襲われている村はここから離れていてなぁ、そこにはハンターもいないからどうしようもないって話なのさ」

 7m!?記録上では最大でも4mだったはず……確かにこれでは厳しいか……。

「対象の住処はここから馬車で30分ほど進んだところにある渓流だ。それじゃあ……そろそろ時間だな。出発だ」

 最後の団子を口に押し込み、武具屋に手入れを任せた装備を取りに歩くが、妙に足が重い。


 

[第二話]

 丁寧な手入れを受けた武器と防具を手に、ギルの手配した荷馬車に彼と向かい合うように乗り込む。中には銃器用の弾薬が積まれた大きめの木箱や砥石、大量の地図の他に、ハンティストクラブ(ハンティストの免許発行から、狩りに必要な支給品の手配まで行ってくれる組織だ)から支給されたであろう近接戦闘用武器の替えの刃が入っていた。だが、切れ味は良いとは言えずそもそもこの刃では型が違うので私の柄には入らない。私の剣は、「切れ味を出すために刃を鋭くすると刃こぼれしやすくなる」という、鍛冶屋の長年の悩みを解決するべく私の父が考案したものだ。柄と刀身を着脱式にすることで刃こぼれしても次の刃で攻撃できるようになっているため、従来品より高い切れ味を実現できた(資源だって無限にあるわけではないので限界まで切れ味を優先したわけではないが)……が、替刃の携行に伴い重量が激増する上、大剣や大太刀などは替刃を用意しても装填に時間がかかるため、刀身が短い武器を使うハンターにしか需要はなかった。

 ギルは地図の山から今回の討伐対象の住処である渓流付近の山の地図を取り出し、私に作戦を説明し始めた。

「斥候によると、奴らはこの山の中腹にある洞窟に住んでいるらしい。そこで今回の“バールフ討伐作戦”では、俺と嬢さ……ハインケスさんの少数精鋭で奴らの巣を襲撃する。洞窟内に侵入し、このギロチンで寝首を掻くのさ」

 先遣隊などいつ手配したんだか……若干疑問に思うが、それよりも。

「作戦の段取りはわかりました。しかし、対象のすぐ横でギロチンを組み立てている間に、対象が気づく場合も考えられますよね」

 私がそう訊くと、ギルは少し驚いたような顔をしていた。──まさか想定してなかったのか?予備プランほど綿密に練っておくものだろう……というか、ほかの街からハンィストを呼ぶほどの依頼なのになんで予備がないんだ。今まではゴリ押しで討伐してたのかよ。

 しばしの沈黙の間、荷馬車がゴトゴトと私を揺する。傾き具合からもう山道に入ったことに気づく、と同時にギルが口を開いた。

「ああ……、それなんだが、まあ、あれだ。『臨機応変に対応せよ』ってことでよ」

 いや「ガッハッハ」じゃない。豪快に笑ってもダメだ。それだけ信頼されているとおもえるほど、私はポジティブ思考じゃないぞ……。などと一人でツッコミを入れていると、ギルが装備の確認を始めた。ああ、もう作戦は「臨機応変」で決定なのか。

 聞こえないように吐息を漏らしつつ、私も支給品と装備を確認する。支給品ボックスの中身は……火炎瓶が1本。対象に張り付き、染色済みの細かい粉塵を吹き出し続けて対象の痕跡を残すカラーボールが5つ。携帯食料と即効性の高い治癒薬がそれぞれ手のひらサイズの小瓶に2本か。ここのクラブが金欠なのかは知らないが、もう少しあっていいと思う……いや、支給してもらえるだけありがたいか。それぞれをポーチに分けて入れ、腰のベルトに結ぶ。

 持参した装備は、ほとんど父のものだ。防具は父が使っていたものだが素材はよくわからない。おそらく“獣”の一種なのだろうが、加工済みでは見当もつかない。なめした革に、白銀に輝く鱗を接着した鎧。武器は剣の柄が1対に、替刃が3対。太ももに携えた鞘に装填する。この鞘は脚の付け根から膝までのサイズの箱の様になっていて、脚の付け根から10cmの所を軸に鞘が体の前側に傾くようになっている。柄を接続部分に差し込んで刀身は柄にあるスイッチでしか抜けなくなる仕組みだ。ちゃんと一定の手順通りでないと素手では鞘からは抜けないため、勝手に抜け落ちることもない。それと「フラッシュバン・グレネード」──野球ボールくらいのサイズの言わずと知れた非殺傷グレネードだ。洞窟での暮らしになれた“獣”の瞳孔には痛手になるはずだし、少し多いが3個袋に詰める。視線を袋からギルに移すと、やはり彼は背負っていた大剣を使用するらしい。鋼の刃が、断面は細いV字の革製の鞘に収められていて、鉱石で作られたらしい甲冑と共に月光をギラギラと反射している。彼は小型の投げナイフと三脚の小鍋を持参してきたようだが、それ以外は私とほとんどかわらないようだ。

 若干ボーッと、単調な振動に身を任せてウトウトしていた。ぼやけた意識が飛ぶ寸前、ギルに呼ばれた。

「起きてくれハインケスさん、時間が来たぜ」

 ……そういえば、斥候達とあわなかったな。別ルートでかえったのだろうか……


  ***


 ──反省として、ターゲットの情報収集を怠ったことが、私の敗因と言えるだろう。


[第三話]

 馬車を降りると、月がやっと顔を出した。輪郭がぼやけるほど眩しく見えた月は足元の、枝を麻縄で縛られた木を冷たく照らしていた。

 眼前に並ぶ青リンゴの皮をむいたような山々は鉱山で、バールフはその坑道を巣にしているらしい。私は丸太を尻目に準備運動を始める。

「ところでハインケスさんよ、あんたそんなモノで大丈夫なのか?」

「いや……まあ、使い慣れたものの方が楽ですしこれは……」

 言いかけた口を閉じると、飛んでくると思っていた続きの催促は意外にも来なかった。ギロチンの入った袋と大剣を軽々と担ぎ上げて、彼はいう。

「そうだな。さて……行けるかい?」

 もちろん。そう答える代わりに、きゅっと口結び、頷いた。

 とは言っても、巣にされている坑道の入口までは少し歩かなければならない……鎧はまあ、そこまで重くないが。50歳を過ぎているであろうギルには堪えるんじゃないだろうか。そんな不安を予想していたかのように、また言われまいとするようにずんずんと一人で歩いていくこの人に、私はうまく説明できない奇妙な感覚を覚えていた。

 山道(軽く舗装済み)を歩いている途中に、なぜかギルが持っていた半径10cmの小鍋について尋ねてみると「俺がここで鉱夫になる前は、山に生えてたきのこを食って意識が飛んだ奴がいたからよぉ、まだ生えてたら麻酔にできるんじゃねえかと思ってな」と、存外頼もしいセリフが帰ってきた。

「鉱夫の前は調薬師だったのですか」

 しばし黙って──馬車でのやりとりのデジャヴな気もするが──笑いながらこういった。

「いいや。だが、よく使うんでな」


   ***


「ここだな」

「ここですね」

 互いにわかりきったことを口に出し、ものの数分でついてしまった“獣”の巣窟に向かい、気持ちを落ち着ける。

 狩りを終えて眠りにつく夜更け間際のこの時間。眠っていてくれと祈りつつ、手持ちのランプを消してゆっくりと足を踏み出す。

 坑道の中は、武器の関係で私の後に入ってきたギルでも立って進める程度には広かった。足元の錆び付いたレールに転ばないように気をつけつつ、無音の闇に目を凝らす。

「大丈夫か?」

 ささやくギルにハンドサインで返した私は、すぐにサインで「止まれ」と送りなおすはめになった。私の足音が変わったのだ。視線を落とし、地面を触ってみてすぐわかった……特徴的なぬめりは血液だ。そして触れていた壁がなくなり、採掘場に出たとわかった。採掘場では、有毒ガスが発生した時のために通気口が用意される。そこから差し込む月光に、私は団子を吐き出しそうになった。

 酷く顔をしかめた私の立っているここと、3つばかりあるさらに奥へ進む坑道の近くに、軽装の男たちが腹部や首を裂かれ、乾き始めている血潮に転がっていた。双眼鏡にランプ、持っている道具から察するに斥候たちか……。だが、この状況で幸いと言って良いのあ、今回のターゲットは採掘場の真ん中で群れに囲まれ月光に照らされながら眠って動かない。1m前後のバールフ達5頭が群れのリーダーのターゲットを囲んでいるということは、ギロチンの用意までに12の耳と6つの鼻に気がつかれないようにしなければならないわけだ。

「一旦出直しましょう」

 私のサインに気がついて(いなくても逃げたくなるが)、くるりと後ろを向くギル。さあ、静かに逃げれば問題ないのだが──そう思った瞬間、間抜けな声とともにギルが血に滑った。……今でこそこうして書き綴ることができるが、その場で私がギルこいつをぶった切ってやろうかと本気で考えたことについては情状酌量の余地があっても良いと思う。


   ***


 心臓の鼓動が早鐘みたいに耳元で響く中、私へ1匹、ギル目掛けて2匹、小さなバールフが突っ込んできた。それらを視界の淵に入れた瞬間、私は両鞘から剣を抜きギルとバールフのあいだに走る。地面を蹴り込み「さっさと立て!」と叫びながら先頭のバールフの頚動脈めがけて左の剣を突き込むと、鈍い衝突とともに肉を引き裂く慣れてしまった感覚が手のひらに伝わる。そのまま前転し振り返り、ギルを狙っていたもう1匹が反射的に後ろに跳ねたのを聞くと、私を追ってきたバールフが目前に迫っていた。飛び込んできた獣に対して仰け反ると同時に右の剣を顎の下から叩き込む。起き上がって地がこちらへかからないように両剣を抜き、ギルが一刀両断した首と、それにくっついていた胴だけの獣を尻目にターゲットへ視線を向ける。残りの2匹と一緒にまだ様子を伺っているようだが、あの巨体に私の剣は届かないだろうな……

「ギルさん、まだ殉職したくないですよね」

 今さっき私を殺しかけ、死にかけた男に答えの見えている問を小声で投げてみる。私と同じく脂汗の浮いた顔をが頷くのをみとめたとき、突然バールフ達が遠吠えを始めた。仲間を呼んでいるとしたら──そうでなくても、早く逃げねば。

「ギルさん、私の合図で剣と荷物を置いて出口へ走ってください。道はさっきの通りですので、コケたらあいつらと心中してもらいます」

 返事を待たずにポーチからカラーボールを3つ取り出し、深呼吸の後、右手のボールを2つ奴らと私らの間に山なりに投げる。と同時にギルに「走れ!」と叫ぶ。奴らが追ってくるのはわかっている。だが、逃げの一手ではない。これは、攻めの一手だ。

 奴らが駆け出した気配の下時には入ってきた坑道に駆け込み、そこにもカラーボールを叩きつけることができた。坂を駆け上がり、ポーチから火炎瓶を取り出し、安全機構セーフティを外す。ギルが入口(もはや出口だが)へ到達したのを見届けた私は後ろへと火炎瓶を放り込んだ。

 ──さて、これを読んでいる君。カラーボールに使われている粉は紅花という赤い花から作られた染料なのだが、これは燃えるんだ。可燃性の粉塵と、火。そう、つまり──

 鼓膜と禿山を揺らす爆発を背に、私たちは馬車に駆け込み、敗走した。


[第四話]

 心と身体の高揚を冷えた空気が覚ましていくのがくっきりと感じられた。大きく肺の中の空気を吐き出して、中身を入れ替える。向かいに転がっているギルはもう眠ってしまっている……今のうちに……

 私も鞘を外して横になり、雲間から漏れる月明かりをぼんやりと眺めながらこれからの処理について頭の中で考えを巡らせてみた。鼓動が落ち着いてくると、次第に張り詰めていた糸がフッとちぎれたように、私の意識はまどろみに飲まれた。


 ***


 「……で、なんで“獣”じゃなくてオッサンが繋がれているのでしょうか。」

「いま説明したとおりです。今話した異常バールフとは関係なく、この男……ギル=ヘルストは5年前に起きたガイア近辺での少女誘拐事件の重要参考人です。」

「ではなぜ、その誘拐犯と一緒にハントに出ていたのでしょうかー。」

「これで2度目ですが……。この人が街を出歩き、ギルドに接触してくるということは被害者はもう死んでいるか売られているでしょうから証拠もなにもありませんし。それに……」

「お団子美味しかったんで」とは言えないよな……。

 馬車で私が眠ってしまう前、私はギルのことを拘束しておいた。理由はさっき述べた通りだが、私の自己紹介を書いておかねば。

 私は、ハンティストギルド-オステム支部の「治安維持課」に所属しているハンティストだ。そもそもこの世界は“獣”が現れて蹂躙された時──崩落期以降、それ以前にあった「国」が存在しない。いや、各村や街が国の代わりと言っても良いだろう。それぞれに領域や国民、主権はあるが、国境は崩落期以前と比べて人口も激減したため紛争を起こすほど密接していない。だが、各クニが建国されていくなかで、“獣”に対抗すべくハンターが生まれていった。そのハンター達を統括したものがハンティストギルドだ(ちなみに、ハンターはハンティストの前身で、ハンティストは“獣”の生態研究も担っている)。各クニに警察などはあるが、仕事柄各地を旅したりする私たちは警察の指定した犯人や重要参考人の指名手配をすることもある。私がギルの顔を知っていたのは、ここに来る前にこの近辺の指名手配リストに目を通していたからだ。あくまでも副業的位置なのだが。

「とにかく、資料を漁ってきてください。それから、水をいただけますか。」

 渋々引っ込んだ受付の青年にロビーで待たされる間、俯いていたギルが顔をあげて「なぜ確信したのか。」と聞いてきた。初めて会った時点で一度ここに来るのは決めていたが、なによりこの人が使っていた剣だ。依頼を出してきたということはハンティストではないわけだが、なぜそんな男が身の丈近くある大剣を持っているのか。なぜ依頼を出した時ではなく出立前に手入れに出したのか、とか。まあそんなところだ。

「失礼致しました。確認が取れましたので、あとはこちらのものが処理します。」

「いえ、ではこれで。」

 帰ってきた青年の態度の改まり様に内心でほくそ笑みつつ、まっすぐ宿に向かった。

 宿に着いたときにオーナーが何か言っていた気がするが、よく覚えていない。部屋に入るなり荷物を降ろし鎧を脱ぎ捨て、鉛のような身体でそのまま布団に倒れ込んだ。重たい瞼に逆らうことなく、そっと一日の無事を喜び、深い眠りに落ちた。


 ***


 もう日の出から少し経っているらしい陽の光で目を覚ました。昨日に引き続き重たい身体を引きずり、大浴場へと向かう。脱衣所で身につけていた衣類の代わりにハンドタオルを持って浴場の戸を開けるが、もう誰も入っていなかった。裸体だが思いっきり《のび》をして、頭からお湯をかぶる。柔らかな陽をそのまま浴びているようなぬくもりの湯で身体を清めて、湯船につかる。肩まで浸かると、ショートともロングともつかない中途半端な白髪が湯船に揺らいだ。……なんだ、珍しいか。髪を着色したり脱色したりできる世界であれば、私も真っ先に黒く染めるのだが生憎そんな技術はないんだ。

 湯船から上がり、新しい肌着に着替えて部屋へ荷物を取りに戻った。オーナーに交渉して荷車を貸してもらったのでギルの荷物と私の荷物を積んで、チェックアウトした。だが宿を出てすぐに、オーナーが走ってきた。

「ハインケス様、昨日も申しましたが、黒いトレンチコートの男性があなたを探しておられました。外出中ですと伝えると『ギルドのロビーで待っている』との伝言を残していかれました。」


《Notes》


・バールフ(bear-wolf):熊のような外見に狼の頭を持つ,体長1~2mの牙獣種。肉食。5、6頭の群れを率いるのは、体長2.5~4mほどの大柄な同種である。自分と同程度かそれ以上のサイズの草食獣の群れを襲う。体毛は柔らかいが独特の獣臭をどうにかしなければ加工しても使いたくない。また、夜目がきく。


・ハンティストギルド

各地の有害獣駆除などを生業とするハンティストの統括・派遣組織。ライセンス発行から備品の支給など、手広くバックアップしてくれる。

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