137 『倒してはいけない』
「くそっ、埒が明かない……!」
大蛇の攻撃をかわしがてら、その頭部を蹴って粉砕するが、すぐに元通りに復活する。
先ほどから、ずっとこの調子だ。あちらの攻撃は大振りなうえに単調だから、今の状態ならかわすことは難しくは無い。ただ、逆にこちらが攻撃を加えても、すぐに元通りに再生してしまうのだ。
「いつまでやってりゃいいんだ、よッ……!」
愚痴りながらも、蹴りを放つ。多少の抵抗はあるものの、大蛇の一部は粉砕される。だが、最初のうちは、抵抗を感じるほどもなく、あっさりと蹴り壊せていたのだ。
「あー、くそ、このままじゃ結局ジリ貧じゃねぇか」
こちらからの攻撃うけてもほとんど効いていないというのに、徐々に硬くなりつつあるうえに、再生の速度もどんどん速くなってきている大蛇。
それに対して俺は今のところ問題なく避けて入るものの、一撃喰らえばゲームオーバーの命がけ。おまけに空亡の魔力が何処まで持つのかも正直分からない状況だ。
俺の勝利条件は一つ――、大蛇の唯一の弱点、そこを潰されれば再生することの出来ないとされる、核を壊すこと。
高層ビルサイズの巨体の中から、その核とやらを壊すなんて、適当にやっていたらいつまでかかるか分かったものじゃない。けれど、俺はそんなものを探す術なんてもたない。というか、襲い来る大蛇に対応していくだけで精一杯だ。
だからこそ、そういう能力を持っているだろう上に、直接現在動いているわけではないやつに、依頼しているわけだが、一向に返答は無い。
「いい加減、核が何処にあるか分からないのかよ、空亡……!」
かれこれ半時間以上はこうして戦いっぱなしだ。けれど、核を探すといった空亡はいまだに何も反応は無い。なかば愚痴のような文句で、返答を期待していたわけではない。
『む、核ならとうに分かっておるぞ?』
だから、こんなふざけた回答が返ってくるなんて予想なんてしていなかった。
「ハァッ!? 分かってた、だと……!?」
『む、当然であろう。そもそもが魔力で生み出された身なのじゃから、その修復の際の魔力の流れを見ておれば、その核に当る部分なぞ、簡単に分かることだ』
何を当たり前なことを、と言い放つ空亡。人が必死で戦っていたというのに。
もうやだ、こいつ。味方が一番酷いって何なんだよ、ほんと……。
「あー、もういいさ、それで、核ってのは何処にあるんだよ……! 分かったなら教えてくれ、それを壊せば、こいつも倒せるんだろ!」
文句なんて言うだけ無駄、というかむしろ喜ばせるだけだ。だったらもう、さっさと必要なことだけ聞いて、終わらせよう。結局、それが一番ましな選択のはずだ。
『ふむ、核の場所は、あの辺り……と、言うより、見せたほうが早いの、ほれ、そこじゃ』
「あー、助かる。なるほど、そこか」
空亡の言葉が響くと、俺の視界に広がる大蛇の一部、その真ん中辺りに、人一人分くらいの小さな赤い丸が追加される。原理は不明だが、その場所さえ分かるのならばそれでいい。まぁ身体を変に弄くられていないかという不安感はあるけれど。
『ただ、のぅ』
「ん、どうした? そこを攻撃すれば、いいんだよな?」
『うむ、それでこやつは消滅するであろう』
「なら、何か問題でもあるのか?」
もしかして、こいつを倒すと世界がやばいとか? もしくは強化されて復活するとか?
『いや、そのようなことは無い。単に、なんかこやつの魔力に覚えがあるような気がしてな。なんというか、奥歯に物が挟まったかのような、気持ちの悪い感じでの』
「あー、なるほど、思い出せそうで思い出せない、と。まぁ確かに気持ちは分かるが、今回はもう諦めてくれ」
流石に命がかかってる状況なのだ、そのぐらいのことは我慢してほしい。そもそも、気持ち悪いとはいっても、死んだら元も子もないのだから。
「よし、おあつらえ向きだな……!」
攻撃をかわした先、丁度俺が飛び上がったのは、核があるところのすぐ近く。多少は硬くなっているとは言っても、今ならまだその身体ごと、核まで一気に砕くことは出来るはずだ……!
「これで、今度こそ、終わり、だぁあああああ!」
万感の思いを込めて、赤く映るその場所に向けて、渾身の踵落としを振り下ろす。
その巨体のせいで、大蛇はもはや避けることは出来ない。
そして、俺の一撃が大蛇を覚悟と粉砕する寸前――、
「ちょっ、ダメです、彰さん!? 待ってください、止まってください!」
なんて言葉と共に、俺は羽交い絞めにされた。二本の腕と、八本の脚に。
レイアと共に、出かけていたはずの我家の蜘蛛娘、依織が何故だかそこにいた。
「えっ、いや、お前なんで!? というか、なにをするんだよ、やっとあいつを倒せ――、」
「だから、倒しちゃダメなんです、彰さん!」
「いや、ダメって、非常識な怪物だけど、襲われてる以上は――」
いつも余裕のある態度であるのに、何故か物凄い慌てた様子の依織。
そして、そんな彼女の口から、本日最も驚かされる、予想外すぎる言葉を聞かされることとなる。
「あれ、レイアさんなんですよ……!」
「……は?」
『おぉそうか! なにか覚えがあると思ったら、レイアの魔力によく似ておったのか!』
唖然とする俺に対して、スッキリした様子の空亡の声が響く。
それは、依織の言葉を肯定するようなもので……。
「あ、彰さん、呆けてる場合じゃないです……!」
「へっ、うおっ!?」
固まる俺達のことなど関係なかったらしく迫っていた巨大な口から、依織を抱えて何とか飛び去る。そして、そのまま大蛇の姿が見えなくなるほどまで、俺は一気に距離を取る。
「ここまで距離を取ればいいだろ。それで、一体、何がどうなってるんだ……?」
「正直、私自身、よく分かってはいないのですが……」
そう前置いて、依織は話し出す。彼女とレイアがこれまで何をしていたのか、そして彼女達に、一体何が起きたのかを。
――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて4話終了です。
なお、白蛇さんの設定は1部の頃から実は女性でした。
使う機械がなくてお蔵入りしていた設定です。
あ、あとレイアのことも当初からの設定です。
本編内でつかうタイミングがなかっただけで。。。。
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