111 『答えられない』

「もうしわけありません、約束を果たせず……」


「すまん、負けた」


 医務室で会った二人は、開口一番そんな謝罪の言葉を言ってきた。


 けれど、ベッドに横たわる二人は、特に目立った怪我なんかもなく、思っていたよりも酷い状態じゃなさそうだ。医務室に運ばれた、なんて言われて心配してただけによかった。


「はぁ、まぁいいわよ。戦えないのは残念だけど、結局勝負は時の運だしね。変な大怪我とかしてないなら、また今度決着はつけましょ。ていうか、医務室に運ばれたとか聞いたけど、元気そうで安心したわ」


「ですね。強い相手にあたれば負ける、というのは仕方ないことです。私達も、なんだかんだでぎりぎりの試合でしたから」


「そう言っていただけると、助かりますわ。わたくし達としても、決着をつけるのは臨むところですから次の機会には、是非お願いします」


「あぁ今回は縁がなかったが、次戦うときは負けないぞ!」


「勿論よ! あ、けど手加減なんかしないわよ? 真っ向から、今度はしっかり倒してあげるから!」


「ふふっ、手加減なんか不要ですわ! 全力のあなた方と戦ってこそですもの!」


 あたしもメイディもミーティアも、次の戦いに思いを馳せて意気込む。今回結晶で戦えないのは残念だが、決着をつけるために戦うのなら舞台なんて関係ないんだから。


「はいはい、それではそのお話はそのくらいにしていただいてよろしいでしょうか。実は、ここを訪れたのはお見舞いというのもあるのですが、一つ聞きたいことがありまして」


 あたし達の話が丁度切れたところで、依織が口を挟んでくる。けど、見舞いと決着の約束以外になにかあったかしら?


「えぇ分かっていますわ。わたくし達の戦った相手のこと、でしょう?」


「はい、貴女方の実力は、戦った私達はよく分かっているつもりです。だというのに、私達が試合を始めてすぐ――、つまり短時間で負けた上に、本来安全なはずの試合で医務室送りになった、ということが気になりまして」


「確かに、考えてみればそうね。あたし達が入ってすぐってことは、ほとんど同じタイミングで戦い始めた二人がすぐに負けたってことよね。でも、見たところ元気なようだけど何で医務室送りになったの?」


 医務室送りになった、なんて聞いて心配してきたわけだけれど、別段二人におかしなところは無い。そもそもが、怪我をしない安全なはずの闘技場で戦っていたはずなのに。


「それなんですけど、ご期待を裏切るようで申し訳ありませんが、お答えできません」


「そう、ですか。できれば、あなた方の分も私達で雪辱を晴らそうと思ったのですが……」


「あぁ、いえ、そういうわけではないのです。別に情報を教えたくないのではなく、ただ答えられないだけなんですわ。出来ることなら、お二人にはわたくし達の分も勝って、是非優勝してほしいと思いますし、できるかぎり協力をさしあげたいとは思うのですが……」


 そんなメイディの言葉に、ミーティアが続ける。二人が、答えられない理由を。


「悪いが、オレ達、覚えてないんだ。戦ったことを、全く。闘技場に入ってからの記憶が全くないんだ。入ったと思ったら負けて出てきていたらしい」


「はぁ、記憶がない? というか、負けて出てきていたらしいって、どいうことよ?」


「その言葉通りですわ。わたくし達は闘技場に入るために転移してから後の記憶がなく、気がついたらこの医務室にいた、ということですの。どうやら、転移して数分で気を失って戻ってきたみたいですわ」


「なるほど、それで医務室に送られた、ということですか。そうなると、本当に分かりませんね、一体なにがあったというんでしょうか……」


「さぁ、わたくし達にも分かりませんわ。もしかしたら、ジェーンさんならとなにか知ってると思いましたが、彼女も覚えていらっしゃらないみたいですから」


「えっ、あいつも覚えてないの……?」


 メイディ達だけならまだしも、あの空亡と同じような規格外存在のジェーンまで覚えてないっていうのは、流石にちょっとおかしい気がする。


「なるほど、それは大変ですね……」


「まぁ気にしなくていいですわ。覚えてないうちに負けてのは悔しいですけれど、特に怪我なんかもありませんから。目を醒ました今は大事を取ってここで休んでいるだけですので」


「あぁ、記憶は無いが、それ以外には何も問題ないからな。だが、お前達も、決勝で戦うときには気をつけてくれよな。やっぱりオレとしても、お前達の方に優勝してほしいからな」


「えぇ、大丈夫、二人の仇はとってあげるわ……! あたし達に任せときなさい!」


 色々分からないことは多いけど、戦う前から全部分かってるなんてあるわけもない。どんなときでも全力で挑んで、戦うだけなんだから。


「色々と、考えることが多くて嫌になりますね。分からないことが分かった、というだけである意味収穫ではありますが……」


 なんて、ぼやく依織とともに、二人から激励されて医務室を後にする。


 けど、分からないなら分からないでしかたない。どんなことになるかは分からないけど、あたしは全力で戦うだけ。


 明日の決勝でそれがどうなるかは分かるんだから。……まぁ、忘れない限りはだけど。

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