105 『自爆』
「くっ、このっ、離れろッツ!」
流石に、巻きつかれた状態で長物は振るえないうえに、手も上手く届かないらしいのでミーティアからの攻撃は無い。けえど、そのぶん背に絡みつくあたしを振り払おうとミーティアは暴れ回る。
「そう言われて、素直に聞くわけがないでしょうが……!」
だけど、あたしだってそう簡単に思い通りにさせるつもりは無い。きつく尾を巻きつけた上に、両手も使ってしがみつく。ただ、少しでも気を抜けば振り下ろされてしまうお陰で、こっちも尾できつく締め上げる以外の攻撃は出来ないんだけれど。
「こういうときは、やっぱ火力よね! 黒焦げにしてあげるわ……!」
動けないなら動かなきゃいいじゃない!
本当は魔術を使うなら集中が必要――だけど、慣れきったものなら別だ。
「燃え尽きなさい――炎よ!」
あたしの言葉に呼応して、炎が生まれる。ただ、今は狙いをつけることも、飛ばしたりする余裕もない。それなら、どうすればいいかなんて簡単なことだ。
「ぐっ! 自分まで、巻き添えにか……!」
そう、出した炎をそのままその場に――ミーティアの背中にぶちまける。これなら、前のときみたいに逃げられることもありえない。
「こっちは慣れてるのよ! それに、この距離なら外しようもないわ!」
その背に巻きついたあたしも当然まきこまれるが、自分で使った馴染みの炎だ。熱いけど、我慢できないものじゃない。そもそも、メイディの時だってやったことだ。
「そっちがその気なら、オレだって……! 其は、我が名と同じモノ――」
「そう来るってのは予想済みよ!」
「――夜空を燃え、むぐっ!?」
詠唱を始めたミーティアの口に手を伸ばしてそれを阻んでやる。
前のときは訳も分からないままにやられたけど、ネタが分かっているうえにあのときみたいに距離もないなら、とめるのだって難しくない!
「ぐっ、ひっ、卑怯だぞ……!」
「そんなのとめられるほうが悪いに決まってるでしょ! 遊びじゃなくて、戦いなのよ、これは! それっ、もう一回行くわよ、炎よ……!」
言って、もう一撃炎を生み出しぶちまける。あたしも焼けるが、それ以上にミーティアの背が寄り焦げ付いていく。動きが激しいお陰でなかなか連発は出来ないけど、このままいけば――!
「くっ、どうなっても離れないってつもりなら、これでどうだ……!」
「えっ、ちょっ、あんた一体何を!?」
いきなり加速したかと思ったら、ミーティアが飛び上がったのだ。数メートル、彼女自身の数倍の高さまでその脚力だけで無理やりに。勿論、その背に巻きついたあたしも一緒に。
「さぁ、これならお前も巻き添えだぞ……!」
「ばっ、馬鹿じゃないの!?」
飛び上がったままその背を地面に向けて、自分後とあたしを叩きつけるつもりなのだろう。意図はわかるけど、だからってこんな自爆特攻みたいなこと、どうして思いつくのよ!
「ふんっ、自爆攻撃はお互い様だろ?」
「く、流石にそこまでは付き合ってられないわ……! あんた、自分の重さ考えなさいよ!」
巻きついたままだと地面への落下に加え、更にミーティアの重みまでも合わせた衝撃を喰らってしまう。半身が馬のこいつの重さは人間なんかとは比べ物にならないのに。
「ぐはっ……!」
「くっぅ……!」
その場に響く二つの呻き声。勿論、あたしとミーティアのものだ。
地面にぶつかる寸前に離れたお陰で押しつぶされはしなかったけれど、受身も取れず落とされた衝撃までは殺せない。それはあっちの方も同じだったんだろうけど。
「さぁ、ようやく、向き合えたな……!」
「ふん、そのボロボロの状態で、よく言うわ……!」
よろよろと立ち上がりながら向き合うあたし達。
落下でお互い大きなダメージを負っててはいるけど、あっちは背中から落ちた上に、先に魔法で焦がされていて、あたしの方がまだマシな状態だ。
ミーティアはもはや、慢心相違と言ってもおかしくないような状況なのだから、このまま戦っても前の時のようにはいかないはずだ。
けれど、あたしは忘れていた。これが、一対一の戦いでなかったということを。
「ミーティアさん、お助けしますわ……!」
「なっ、メイディ!?」
後ろからかけられた声。けれど、振り向くことは出来ない。声がかかると同時、あたしの身体が硬直していたから。
「さぁ、これでもう邪魔は出来ないぞ? こんどこそ、しっかり喰らってもらうぞ!其は、我が名と同じモノ――夜空を燃え落ちる星よ、この求めに応じ今ここに在れ……!
」
「なっ、この状況じゃ……!?」
「――メテオ!」
――その詠唱が終わると同時、動けないあたしに向けて炎熱を纏った隕石が降り注いだ。
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