099 『点数稼ぎ』

 細々と、まぁ個人的にですが、点数を稼いでいき四日目。


 ここまでくれば、大体の明暗というのは分かれてきます。具体的に言えば、本戦に残れる可能性のあるものと、残れないであろうものの差が。


「ねぇ、あなたに頼めば、いいものがもらえるって聞いたのだけれど……」


 私の部屋を訪れた見知らぬ魔族の少女。ですが、そんな彼女に私は微笑を持って返答を行います。


「はい、気にいって頂けるかは分かりませんが、精いっぱいのものを仕立てさせて頂きます」


 そう言って、私は訪れた少女の要望を聞き届け、彼女の望みのもの――魔力を込めて編み上げる、オーダーメイドの着物を仕立て上げる。完成したそのできばえに、当初は半信半疑だった少女も最後には笑みを浮かべ、感謝の言葉を口にしてくれる。


「ありがとう! 貴女、凄いわね……! 頼まれたことは別に、何かあったら言って頂戴!」


「いえいえ、喜んでいただけたようで何よりです。また同じように、点数をもてあましてる方がいりましたら、私のことを伝えていただけると助かります」


 そう言って、上機嫌で出て行く少女を私は笑顔で見送る。


 挑んで負けてもらい、点数を貰う。その代わり、こちらから謝礼の織物を渡す。


 本戦への出場を諦めた少女達にそんな物々交換を申し出て、私は点数を稼いでいた。


「やっぱり、依織さんの能力は凄いなぁ。私も欲しくなっちゃうよ。着物って綺麗で憧れるけど、この身体じゃあ普通は着れないし、そもそも手に入れる機会もないから……」


「あら、それなら早く言ってくれたらよかったのに。このぐらい手間でもありませんし、ルピアさんの頼みでしたら、今まで以上に腕によりをかけて作らせていただきますよ」


「えっ、ホントにいいんですか!」


「はい、勿論です。もともと、これはルピアさんの案なんですから」


 そう、私の能力で衣服が編めることを知ったルピアさんが提案してくれたのだ。


 魔族といえど年頃の娘。西欧風の娘達ばかりの中で、一人の着物姿の私の姿はとても目立ちます。そして、それを欲しい、と思う相手は絶対にいるはずだから、着物を代価にして本戦出場を諦めた相手から点数を稼いではどうか、と。


 ――その結果が、先ほどの光景である。


 諦める相手はどんどん多くなる上に、先に交換してくれた相手が口コミで広げてくれる。そんなわけで、この点数と着物の交換は中々に盛況となっているのでした。


 それにルピアさんと協力し相手の能力を分かった上での挑戦も平行して行っていったお陰で一応、私個人としてならば充分本戦に残れる程度の点数は稼いできました。


 ――が、それは普通の相手がパートナーとなった場合。レイアさんと組むことを考えれば、まだまだ点数は欲しいところです。ですから、私は更になる一手を打つことにします。



 翌日、予選最終日である五日目。

 この局面にくると、参加者は大きく三つに分けられます。


 まず、本戦への参加を諦めたもの。そして、点数は充分と満足し手の内を晒さないようにするもの。つまり、参加者のうち多くはほとんど部屋にこもることとなります。


 そして、会場を歩き回ることとなるのは、本線へ参加できるかどうか微妙な点数の方々、と。けれど、ここまでくれば強い相手は分かる上に、弱い相手はいない。けれど、一日に挑めるのは三回だけ。おまけに一度戦った相手とは戦えないとなれば、広い場内で相手を探して歩き回ることとなるわけです。


「あっ、そこのあなた、私と勝負よ!」


 何とはなしに城内をうろついていた私に少女が勝負を挑んできます。


 本来なら、ルピアさんと協力して勝ち続けているお陰で、警戒されるべき私に。


「はい、勿論受けさせていただきます」


 ニコリ、と笑みを浮かべて私はその挑戦を受けます。


「えっ、あんたは……!?」


 私の正体に気づいた相手が、驚愕の声を上げてきます。流石に、近づいて声まで出せばばれてしまいますね。ですが、挑んでいただいた以上はもう遅い、ということです。


「それでは、魔力操作で競い合いましょうか」


 そう言って、得意勝負に持ち込んで相手から点数を頂いていきます。


 勝負が終われば、また適当な城内を歩き回っていく。着慣れない洋服を着た上に、髪を二房に結った、遠目からは私と全く分からない姿で。


 結果、都合十人ほどから勝負を挑まれ全てに勝利をいただいたうえに、物々交換をした方達の好意でこちらから挑む分の六点も確保させてもらい、私の最後の戦いは終わったのでした。

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