097 『同じ悩みを抱える同士』

「あぁ、よかった。まだこの辺りにいてくれたんですね」


「ふぇっ、なっ、なんですか、また、勝負ですか……!?」


 ホールに戻った私が声をかけると、少女はびくりと身をすくませる。


 ふわふわのウェーブのかかった金髪に、まるくくりっとした青い瞳。小柄ながらも令嬢というべきほどに整ったその容姿は、一言で表すならば幼さの残る未発達な美少女、と言ったところです。


 ……ただ、この催しが魔族の令嬢の交流会であることに相応しく、その方から生えているのは人間のような腕ではなく、羽毛で覆われた大きな翼ですが。漫画や何かで言うところの、ハーピィというような種族なのでしょう。


「あぁ、すみませんそんなつもりはなかったんです。ただ、あなたとお話がしたい、というだけでして」


「へっ、そっ、そうなんですか、それはすみませんでした……!?」


 私の言葉が予想外だったのか、元々丸い目を更に丸くするハーピィの少女。なんというかその動きからは小動物的な何かを感じてしまい、思わず保護したくなるような可愛さだ。


 ……正直、私には無いその愛らしさは、ちょっと羨ましい。


「それで、話なんだけど、人が多いところで話すのもなんですから、ちょっと他の場所に移動させてもらってもよろしいでしょうか?」


「あっ、はい、分かりました」


 誘われるまま、とことこと小さな歩幅で私についてくる少女。なんというか、無警戒すぎませんか……? 一応、私が勝手に目をつけていただけで初対面なのですが。



「それで、お話というのはなんなんでしょうか? えっと……」



 ホールから移動して、やってきたのは私の部屋。


 本当に、警戒心がないですね、この娘。だまされて、悪い人間に捕まってしまわないか、心配になってしまいます。


「依織、と申します。名前も名乗らず、突然連れ出すなんて、失礼をいたしました」


「依織さん、ですね! あ、わたしはルピア、ルピア=ハルピア、見ての通りのハーピィです! 依織さんは、なんの魔族なんですか?」


 両肩から生える翼を掲げながら、そう元気よく言い切る少女改め、ルピア。やはり、予想通り種族はハーピィだったようです。見れば分かることではありますけれど。


「あぁ、すみません、私は女郎蜘蛛――、魔族としては、アラクネの一種、とったところでしょうか」


 着物の裾を持ち上げて、隠している蜘蛛脚を露にする。


 彰さん以外の異性にするのは絶対嫌ですが、まぁ同姓ですし気にすることでもありません。それに、あちらが種族を言った以上、こちらも伝えるのが筋というものでしょう。


「それで、お話なのですが、その前にお聞きしたいことがありまして」


「聞きたいこと?」


「えぇ不躾ですが、ルピアさんは、この予選、勝ち残るつもりはありますか?」


 まず、ここからです。この質問が上手く通らなければ、また新しい相手を見つけてやり直しとなってしまいます。けれど、そんなものはいらない心配だったようです。


「あはは、そんなの無理って諦めてますよ。だってもう、今の段階で五人から挑まれて全員に負けて、点数はマイナス五点ですから。それに、もともと戦ったりするのは苦手ですし」


 困ったように頬をかいて答えるルピアさんには、裏があるようには思えません。これで、第一の条件は完了です。それでは、もう一つをお聞きするとしましょう。


「……それでは、欲しい景品、というものはないということでしょうか?」


「それ、は……」


 私の問いかけに、今度は言葉を詰まらせるルピアさん。思い切り表情に出る事といい、どうにも素直な性格のようです。


「いえいえ、特にそれをどうこうしよう、ということではないんです。むしろ、欲しいものがあっていただけたほうが、私としてはありがたいんですよ」


「えっと、どういうことですか……?」


 訳がわからないという風に聞いてくるルピアさんに、私は優しく微笑みかける。


「単刀直入に言います。ルピアさん、私の予選通過に協力してくれませんか? その見返りとして、私が上位に入り目的の景品を手に入れた際には、あなたにそれをお分けします」


「そっ、それって、もしかして、依織さんが狙ってる景品って……!」


「えぇ、私とあなた、種族は違えど、同じ悩みを抱えるものどおし、狙うものはきっと一つと考えております――ですが、確認の為、あなたが欲しい景品をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」


 わたしの最後の問いかけに、ルピアさんは意を決したように、その望みを吐露する。


「わたしが欲しいのは――」


 こうして私は、胸に同じ悩みを抱える同士――もとい、予選通過のために欠かすことの出来ない協力者を手に入れたのでした。

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