095 『予想外な結果』

 ――そして、五日が経ち、予選終了のときがやってきた。


 もはや戦いは全て終了しているうえに、各々組む相手を確定して申請している。あとは、発表を待つだけという状態だ。誰もが、固唾を呑んで壇上のジェーンの言葉を待っている。


 そんななか、初戦を華々しい勝利で飾ったあたしはというと――、


「……どうしよう」


 と、内心で頭を抱えているのだった。


 隣にいる依織には、どうしても話せなかった。予選といってもママが考えたもの、ただ戦って勝てばいいだけ、なんて甘いもののはずがなかったのだ。


「どうしたんですか、レイアさん? 浮かない顔をして、私達の予選通過は決まっているようなものなのですから、もっと余裕を持って見ていたらどうです?」


 言葉通りに、気楽な表情で壇上を眺める依織。その様子から見るに、かなりの点数を稼いできたらしい。が、それでもこれはチーム戦なのだ。片方がどれだけ稼ごうと、もう一人が稼げなければ点数は平凡なものとなってしまうのだから。


「そういえば、レイアさんは点数いくら稼いだんですか?」


「うっ」


 何気なく聞かれたことに固まる。答えたくない、というか答えられない……。


 あんなに自信満々に言っておきながら、散々な結果をどう伝えたらいいというのだろうか。つまるところ、あたしの点数はすこぶる悪い。かろうじてマイナスになっていない、というレベルで。


 初戦での戦いが参加者全体に見られたうえに元々見知った顔が何人かいたお陰で、極一部の戦闘好きの令嬢以外からは勝負を挑まれなかったのだ。しかも、逆に戦いを挑まない相手にこちらから勝負を仕掛ければ純粋な戦闘ではなく、魔力操作といったあたしの苦手な技術での競い合いにされて負ける始末。


 相手から勝負を申し込まれることはほとんど無く、こちらから挑めば負けて点数が減るという悪循環でほとんど戦いが出来なかったのだ。ただの戦闘と思っていた自分に激しくダメだしをしてやりたい気分である。


 ……勿論、そんなことを依織相手に言えるはずもない。


「そっ、それは、あとのお楽しみよ! けど、まぁ、あたし達がいくらがんばったとしても、もしかしたらもっと他の相手が稼ぎすぎてるって可能性もあるんだから、余裕を出しすぎたり、期待しすぎるのもよくないと思うわよ。えぇ、危機感は大切だと思うの」


「まぁいいでしょう。結果を見ればすぐに分かることですし。そちらがそのような態度でしたら私のほうも、点数をお伝えするのは後にさせていただきますけれど」


「……えぇ、それでいいわ。結果が出た後だったら、なんだって言ってもらっていいわ」


 無意味な引き伸ばしだとは分かっている。今から発表される結果で、すぐに分かってしまうことなんだから。我ながら、無駄なことだと分かっていて自分の失態なんて言い出せないのだ。特に、こいつ相手には。


「それでは場も盛り上がってきたところで、結果を発表しま~す!」


 なんて、宣言から結果が言い渡される。けれど、あたしの耳にはそれはほとんど入ってこない。刻一刻と近づいてくる無慈悲な結果と、どのように依織に伝えればいいかを考え続けているせいで。呆然と、自分だけ蚊帳の外のようなその場に立ち尽くす。


 そうしていると、不意に腕を引かれた。隣に立っていた依織から。


「えっ、なに?」


「何って、いい加減に私達もいきますよよ、ほら」


「えっ、あたし達もって、なによ……?」


 訳もわからないまま、依織に引かれて壇上へと上がる。


 そこには同じように二人一組になった参加者の少女達が立っていた。


「それでは、以上十組、総勢二十名を予選通過者として、本戦にて競い合ってもらいます! 今回惜しくも敗退してしまった皆さんも、優勝者予想のチャンスで景品差し上げちゃいますので、最後までお楽しみくださいね!」


 ……何を言っているのだろうか?


 意味が分からない。本戦や予選通過って、そんなはずないのに。


「低い点数とは想像がついていましたが、流石にあそこまで酷いとは予想外でしたよ。ホントはもっと上になる予定でしたのに、ギリギリ通過なんて……」


「えっ、ちょっ、ホントに通過なの!? あんたいったいどんだけ稼いだのよ……!?」


 喜びよりも先に、驚きが頭を占める。絶対に予選通過なんて出来ないと思っていたのに。


「七十点ですが、何か? まぁ合計七十一点では、結局どうにか十位に入れただけですが。というか、あれだけ言っておいて一点って、何考えてるんですか?」


「うぐっ」


 何も言い返せない。……癪だけど、今回ばかりはこいつに頭が上がらない。


 そんなこんなで、なんとかあたし達は本戦への出場を決めたのだった。

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