⒊ 孤憂勢威(7) 正義と悪

 ガタンッ!


「ど、どうかしましたか小暮先生?」


 場所は職員室。


 何やら外窓を通じて校庭の方へと眺めていた小暮真木奈こぐれまきな先生は、驚いた様子で椅子から勢いよく立ち上がった。


「……へ、」


 ………………


「「……、変身した?」」


 その場にいた朱音も同様の反応をしていた。


『……君が不良と言う悪の道に走ったように、人は必ずしも善の道を走るとは限らない』


「は?」


 突然、皐月は何を言い始めたのかと、呆気に取られる朱音。


 皐月の話は続く。


『一方的な暴力・騙し・裏切り・はやし立て・八つ当たり・性的いじめ等々、これら挙げたことの一つでもされてきた経験のある人ならば、他人を信じられなくなることは勿論、そこから人と関わりたくないと思うように、そうして人を避けるように、人はわざと人が寄り付かないよう非行に走るのかもしれない。

 将又はたまた、家庭環境や家族関係による問題………それこそ親の愛情不足であったり、親らしいことをしてもらえなかったりした子供は、おのずと親に反抗するようにそういう道へと進んでしまうのかもしれない』


「何が言いた…………」


 朱音が最後まで言葉に出すその前に皐月は更に口を開いた。


『……この姿、いわゆるヒーローと呼ばれる存在が善の道を、正義に走ることが出来るのだって、それを支えてくれる存在や理由、ヒーローが正義ヒーローであると言わしめる根拠が、そうであり続けられる根源を持っているからこそ、それが可能なんだ。

 善の道ヒーローがそうであるように、それに相対する悪の道悪の親玉もまた、同じこと。この世に絶対正義、絶対悪なんてものは存在しない。

 善と悪、それらをそう分け隔てる《何か》が必ずしもあるからこそ、生まれ持っての正義なんてものは、生まれ持っての悪なんてものは存在しないのさ』 


「…………」


 いつしか黙って話を聞いていた朱音。


『何が絶対的に正しいなんてものは無い。何が絶対的に悪いなんてものは無い。一言に正義は正しく、悪は悪いものだと片付けてはならない。

 本当に大切なのはその悪が本当に悪いものなのかどうか、そこに対立するその正義は本当に正しいものなのかどうか、善の、悪の本質を見極めることこそが重要だ。

 何故なら君だって、不良になってしまったのは、少なからずそこに何かしらの原因が、悪の道に踏み入れてしまった《何か》がある筈なのだから………』


「……そンなもの………勝手に知った口、叩くンじゃねェよ!」


 皐月の最後の言葉が朱音の心境を大きく揺さぶったのか、彼女は怒りを露わにして光り輝くその瞳を皐月の方へと向けた。


 だが、仮面の奥に潜む彼女の瞳が光を失うことは………………なかった。


『……余計なお世話だと言うかもしれない。私の身勝手な厚意善意が君にとっては悪意に取られてしまうかもしれない。あんなことを言った手前だ。無理に私の善意正義を押し付けるようなことはしない。

 だがもしも、君が内に抱える《何か》を乗り越えたいと――、悪の道不良から足を洗う意志が少しでもあるならば、私はその為の手助けをするつもりだ』


 目くじらを立てて怒りに走る朱音を前にあくまでも手出しはせず、言葉という武器を行使し続ける皐月。


 これは教育実習生だからと、生徒に手出しをしてはいけないとかそういうあれではない。


 人を動かすものには大きく分けて、四つのものがあると考えられている。


 一つは【武力】、二つに【本能】、三つに【愛】、そして【言葉】である。


 【武力】はそれを行使されると、敗北し屈した人間は恐怖心をあおられて動くことだろう。


 【本能】とは、いわゆる己の欲求。食欲・性欲・金銭欲・生存欲等々、己が内に秘める欲求を発散・解放――、果たしたいが為に人は動くことだろう。


 【愛】とは、愛する家族や恋人の為、人は自らを犠牲にしてでも本当に愛する者をものにしようとものならば、人はその者に尽くす一心で動くことだろう。


 そして【言葉】は使い方によって、時に感動、時に笑い、時に驚きなど、様々な感情を人に与え、相手の意識を――、心を変え――、たとえ言葉はつたなくとも、伝えたい思いが伝わりさえしたその時、言葉は確かな力となり、人は感銘を――、影響を――、受けて動くことだろう。


 他の三つに比べ、【言葉】で人を動かすことは難しいことだ。


 生きている人間の数だけ存在する【言葉】という力。


 無限に等しい《言葉ピース》の中から、その人を動かす為の《言葉真実》を探し出すことは困難であろう。


 だが数が多いということはそれだけに他の三つのそれらに比べ、人を突き動かす無限の力が、無限の可能性が秘められているのではないだろうか。


 皐月はそんな【言葉】の無限の可能性を信じて、必死に朱音に向かって彼女なりのメッセージ性が込められた《言葉》を上げるのだった。


「………う、うるせぇぇえええええええぇぇぇぇ―――――――――ッ!」


 邪念を振り払うかのように声を上げた朱音。


「いらぬお世話なんだよッ!つーか、なんでウチの能力が効かねぇのさ!」


『さっきそこの少年が言っていたじゃないか。君と目を合わせてはいけないと。こんな仮面なんかしていては、目線を合わせようにもどこが視線の先か分からないでしょう』


「そうかっ!睨みガン飛ばすことで……と言うのは、不良漫画モノなんかで一回はある、よくある喧嘩の流れなんかで目と目が合ったらって例の現象と同様、視線を合わせなければ彼女の能力は発動出来ないという訳か」


 すっかり戦闘から端物にされた悠人が皐月に能力が効かなかったその理由を発見する。


「クソがっ!目線が合ってなかったッてことかよ!ンなんだったら、そこの女を差し向け、直接叩き潰してやるまで‼︎さぁ、れッ!」


 朱音は目力:【首染領眈しゅそりょうたん】の力で手中に収めていた斬月を皐月の方へと差し向けた。


『武力を行使するつもりはありませんでしたが、ここは致し方ありませんね…………』


 そう言って皐月はドライバーの下にあった穴、スロットマシンで言うところの払い出し口のようなところに手を近付けると、変身時、ドライバーに投入したタカのメダルアニマと同じ赤いメタリックカラーの剣が、四次元ポケットのようにその小さな穴から出てくる筈のない大きさの武器が、そこからCG演出のように不思議と現れると、皐月はそれを手に取った。


景品交換ケーヒンコウカン!タカソード!』


 瞬間、ドライバーからこの武器の命名らしい音声が流れた。


 剣の形はタカのような形をしており、タカの頭から首にけてを持ち手に、両に広げた翼をつばに見立て、妙に長い尾羽の形をした剣身と言ったところだろうか。


 よく見ると、その武器には剣身部分に手回しで転がるスロットダイヤルを彷彿とさせる、スロットの絵柄が付いたギミックが縦並びに三つ付いており、それを見た悠人は何かしら必殺技を繰り出す際に動かす装置であるのだろうと薄々察した。


「なんだっ、変な武器が現れやがったッ!」


 朱音は素直に驚いた反応を示した。


 ガチィン!


 斬月の持つ二刀の小刀――、【新月】&【孤月】と皐月が引き出した、いかにも子供向け玩具のような剣が音を立てて激しくぶつかり合う。


 両者共に距離を取り、先に反撃に走ったのは斬月であった。


 鎌鼬かまいたちの能力を発動し、不可視な刃が皐月を襲った。


 傷付く装甲。


「これは……………」


 見えない攻撃を前に一瞬翻弄された皐月だが、彼女は冷静に剣を構えては、何やら剣身部分の例のギミックを回し始めた。


『チェンジ チェリー!チェンジ スイカ!チェンジ BAR!チェンジ ベル!チェンジ セブン!』


 そうしてダイヤルを777の面に揃えると、つばの部分のタカの翼が大きくなり、必殺音声が鳴り出した。


『ダイヤルセブン!オールセブン!ボーナスセブン!7セブンBIG ウィング!オーバーフライ!金が飛ブ!野次が飛ブ!タカが飛ブ!フライングスリーセブンインパクト‼︎』


 大きくなった翼が皐月の身体を浮かせ、上空から剣を振り下ろすと、CGのような激しい演出と共に光の斬撃エネルギー刃が放出。衝撃波が起こり、斬撃に押しやられるように斬月の身体を大きく後方へと吹っ飛ばした。


『さて、これで少しは話を聞いてくれるようになったかな?』


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[あとがき]

ボーナスセブンについての説明


タカソードを使った必殺技の際、ランダムで剣身、鍔、持ち手のいずれかが七倍の大きさに変化します。


金が飛ぶ タカソード 高そード なんてね

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