⒊ 孤憂勢威(2) 一人の教育実習生
「……ぷっ、あはははっ!こうも
校舎外で最悪の出来事が
「皆さん、こんにちは。
とある三年生の教室内にて、そこのクラスの生徒たちに向けて挨拶をする一人の女性教育実習生の姿があった。
それは打って変わって
時は彼女がこの学校を訪れ、そう間もないところまでに
「初めまして。
場所は職員室。
先に校長室を訪れ、校長先生に挨拶を済ませていた皐月教育実習生は、この場所にて多くの先生方に向けて挨拶をしていた。
肩に少し髪の毛が掛かるぐらいのミディアムヘアーがお辞儀と同時に少し垂れ、アッシュグレージュの髪色が先生方の前に主張される。
決して男性の先生方にも引けを取らない高身長からか、髪から下にもふと目がいってしまう程に黒のスーツがとても映える整ったプロポーションをしている。
「そうか。君が今日から来るって言う例の教育実習生だな。私は教頭の
「
「初めまして、
教頭先生を始め、多くの先生方が優しく返事を返す。
そんな中、ふと一人の教師に目がいった皐月教育実習生。
その人は一言、「よろしく」と挨拶をした後、社会人の礼儀として一度は画面をオフにしていた
するとその人物の近くにいた一人の男性教師がそれを見て、興味津々に声を掛けてくる姿があった。
「柊先生、何を見ているんです?」
「これはだな…………」
「………【仮面
そこに映し出されていた動画のことを
「あっ、すいま………」
教育実習生という立場であるにも関わらず、思わず先生たちの話に割ってしまったことに対し、反射的に謝ろうとする皐月。
だが、それに対し――
「おっ、なんだい。こんな八年前に放送していた特撮番組を知っているのか?こんな年して
特にこの【仮面
私の名は
その人物-『柊恭次郎』は機嫌を悪くするどころか、気さくに教育実習生の皐月に話を掛けるのだった。
その返しが素直に嬉しく、皐月は感謝するように返事を返した。
「そうですね。最近のはあまり知らないのですが、少し前のものでしたら話についていけるとは思いますので、その際にはお手柔らかにお願いします」
「そうか。この手の話についていける職員は一人もいなくてな、正直少しでも話に入れるというのは嬉しいことだ。それじゃあ今日から三週間だったか、実習頑張れよ」
そう言って、柊恭次郎は再び動画へと目を向け、黙って見るのだった。
「はい。頑張ります」
最後に皐月はそう言うと、この場を後にするのだった。
「……懐かしいな。良く弟と見てたっけ…………………」
ふと皐月は片隅にあったとある記憶を思い返す。
そう、あれはまだ自分が中学三年生だった頃――
「見舞いに来たよ、
「あっ、姉ちゃん。丁度いいところに、早く、早くッ!テレビ付けて!」
「そう、
皐月は年の離れた弟の
『――待てッ、ギャンブラン!お前の悪事もここまでだ!』
「わあ、始まった始まった!【仮面
その番組-【仮面
実はこのヒーローにはこれまでの特撮ヒーローと異なる点を持った、異色のヒーロー作品として当時話題にもなったことがあり、特撮好きだった柊恭次郎先生も言っていたが、【仮面
その言葉が指す意味――それは主人公:
そしてこれはただの余談だが、盤面が揃わず変身が出来ないとドライバーから失敗サウンドが流れ、その最後には絵柄が揃う確率がアップしたことを知らせるリズミカルなサウンドも流れ、変身に失敗するたびに確率が上がっていくという設定があったりもする。
「えぇ〜、なんかダサくない?」
「何、言ってんだよ姉ちゃん。【仮面
ここは布都部総合病院というこの島一番の大きな病院の数ある病室の一角。
四年前、その当時一歳だった颯斗はのちにこの地が布都部島と呼ばれ、今のように孤島となった原因である大震災によって、倒れゆく建物の下敷きになってしまい、何とか救出され命を取り止めたものの、その事故によって首から下が動かせない身体へとなってしまった。
そんな弟を元気付ける為にも中学三年生という高校受験を控えた時期にも関わらず、皐月は毎日のように颯斗の見舞いに来ていた。
『ギャンブル同様、物事には引き際が大事な時がある。そう、お前の悪事が
「え~、やっぱりダサいって。だって、何このクサいセリフ」
「さっきのはスロットの決め台詞だよ、姉ちゃん。……………でもさ、もしもあの時………スロットが僕の前に現れて来てくれたら、僕の不運を止めることが………こんな身体にならずに済んだのかな………………」
「……颯斗……………」
ふと颯斗が発した言葉を前に皐月は不意を突かれ、とっさに気の利いた言葉を返してやることが出来ず、一人困っていたその時―
『ボーナスタイム!メモリアルフィニッシュ!ラッキーセブンスラーッシュ‼︎』
番組の展開は敵にトドメを刺すヒーロー番組の大目玉とも言えるシーンへと差し掛かったようで、ベルトの効果音らしき音と共に【仮面
「あっ、出たっ!必殺のラッキーセブンスラーッシュ‼︎ほらほらっ、スロットが敵をやっつけたよ。姉ちゃんも見てたよね」
「うん。ちゃんと見てたよ」
「……僕もあんな風に、自由に身体を動かせたら………スロットみたいな強い身体と力を持った人間だったら良かったのに……………」
「……きっと、きっと時間は掛かるかもしれない。けど諦めなければ、いつの日か動けるようになるって。大事なのは自分を信じる力。
颯斗が本気で動けるようになりたいと願うなら、それに向かって努力すること。少しずつでも動けるように、まずはリハビリを頑張ってみるところから始めようよ」
「……僕、知ってるよ。ここまで
………………
『……つき……』
「……姉ちゃん……代わりに一つ、僕の…………」
………………
『……さ……さん…………………』
「……夢を叶えて欲しい………んだ……」
………………
「―皐月さんっ!」
誰かに声を掛けられ、ハッと現実に戻された皐月。
声のした方へと振り向けば、先程ご紹介に頂いた
「いつまでもそこに突っ立っていたように見えたけれど、授業開始前にやるべきことはもう済ませたのでしょうね?」
「……それは…………」
(やばい。昔のこと、思い出している場合じゃなかった!すぐに担当の小暮先生と打ち合わせをしておかなければ)
何やら出だしからヤバい状況の皐月。
果たして彼女は無事に教育実習をやっていくことが出来るのか。
非常に心配の彼女であった。
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