⒍ 刮目(5) 罰
突如、彼らの前に降下してきた一台の空中偵察機-ドローン。
そいつは内蔵された圧電スピーカーから聞いたことのある名を響かせる。
「……
『おっ、話が早いねぇ。そう、
「……すみません、
『……確かにみっともないねぇ、乱月ちゃん。その状態、手も足も………って足は出せそうだけど、状況が状況なだけに無謀だと考えた訳だねっ!こりゃあ笑いものだわ。あはは、あはははは、はははのはっ!』
「相変わらずですね、冴子さんは」
『いやいや、乱月ちゃん。そこは助けを求めるところでしょ?』
「助けて……………くれるのですか?」
『うんうん。期待しちゃうよね。期待するよね。と言うか、それ言ったの私だから、期待しか無いよね。でも、やーらない。だって、そうでしょ?君はあることをしようとしたのだから』
「あること?」
だがそれも疑問だが、さっきからドローンがうねうねと不可解な動きで彼らの周囲を浮行し続けていることにも疑問を感じていた。
だが、後者の疑問はあろうことに前者の疑問と共に最悪の形で解消されるのだった。
『……乱月ちゃん、誰が特殊監視対象を殺すよう言ったかな?その男-目崎悠人ちゃんは唯一無二の男性
今このタイミングで殺してしまったら、爪の先から髪の一本までありとあらゆる素敵なデータが取れないじゃないか。あの気まぐれなニーナちゃんでさえ、タイミング的に殺して良いだなんてこと、一言も言って無かったよ?言って無かったよね??
な・の・に、どうして殺そうとしたのかなぁ?………そんな悪い子ちゃんにはそれ相応の罰を与えないと、ね?』
その言葉を最後に、突如目の前にいた乱月の肉体が破裂。
爆発音と同時にその現象が起こると、近くにいた悠人は血しぶきを浴びせられた。
「嘘……だろ……………」
「そ……そんな……………乱月が………乱月が………………うわぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ――――ッ!」
あまりの現象に思考が追い付かず、斬月は悲鳴じみた荒々しい声で泣き崩れた。
「……さっきまでの不可解な動き、あの
『あはっ!バレた?バレちった?いやぁ~なんとですね、このドローンちゃん。そんじゃそこらのドローンと違ってねぇ、
小型だからと侮ってはいけないよ。見ての通り、容易く人体が粉微塵になる威力はあるからねぇ〜』
「なんて奴だ…………彼女は仲間だったんじゃないのかよ!」
どんな理由であれ、こうも
今ここで本人を殴ってやることが出来ないことが腹立たしく思ったことだ。
『仲間?あー、そういうのじゃないんだよ。あくまでゲームマスター:へアムちゃんのサポートをしている集団ってとこ?って言っても、乱月ちゃんだけは正規のメンバーじゃないって感じ?彼女だけはヘアムちゃんに個々の能力を認められてメンバーに入れられた訳じゃないし?
ニーナちゃんが言うには、妹ちゃん一人で生き残っていけるだけの力を付けてもらいたいからとか
「………それがあんたの言い分か。なるほど、そいつは良く分かった。だが、さっきの話に出てきた個々の能力ってあれは、何を意味している?」
消化出来ない怒りを燃やしながらも、しっかりと話は聞いていた悠人は、冷静に気になるワードに対する質問をぶつける。
『うんうん。そこ気になっちゃうよね。気になるよね。と言うか、それ言ったの私だから、気になってしょうが無いよね。良いよ、答えて上げる。ほら、良く聞くじゃん。人より
チッチッチッチッ………ブッブーッ!はい、時間切れーッ!この
このドローンちゃんもそうだけど、代表的なもので言うとあれだね。悠人ちゃんも腕に付けているその
と・な・る・と、何となく予想出来たかと思うけどぉ、すでにEPOCHをお持ちの
おいおい冴子ちゃんよ、さっき君は自分を機械設計技術者だと紹介していなかったかい?プログラミングはからっきしの機械いじりが専門の君にそんな高度なことが本当に出来たのかだって?ではでは、その疑問に答えて差し上げようじゃないか。
さっきも言ったように、EPOCHの開発に携わっていた訳だし、当時一緒に仕事していた開発チームのプログラマーの仕事を見る機会もあった訳。
まあ?そんなこんなで何度か見てる内に、
いやぁ〜、何気に見ただけであらかた記憶してしまうあたり、凄くなぁい?ってなぁァアハハハハハハッ!』
なんて、高笑いに奴が己の自慢話を話していると、奴の声とはまた異なる音質の声がそのドローンから聞こえてきた。
『……あーちょっと何、見栄張っちゃって大きくことを言っちゃってんのさ。前半の話は確かな情報であるからあれだけども、プログラムまでに関しては本当の話、同じ仲間の協力者の力だって借りてたくせに。
それどころか、邪魔邪魔言われてたじゃないか。何をこんなところで自分を大きく見せようなんて思っちゃったの。見栄なんか張ったって良いこと何一つありゃしないって』
『―ちょっ、何勝手に立ち聞きしてんだよ。折角キマッてたってのさぁ、これじゃあ台無しじゃんか。この始末、どうしてくれんの?くれんのかな?一体、この状況をどう無かったことにしてくれるのか、実に楽しみで仕方がないよ(イラッ)』
『あははっ!何を言っているんだい?そんなの、僕の知ったことじゃないもの。だって……ついついキメてきてる冴子ちゃんを見ていたらもう………………ちょっかい出さずにはいられなくって』
『はーい、余計な茶々入れるこのヤロウは無視をしてですね、そうそうっ!
君たち二人には記憶に新しいであろう、デスゲーム開始宣言がなされたあの日、訳も分からず飛ばされた施設に置かれたヘアムちゃんを映すプロジェクター。
あれもまたEPOCH同様、
さっきのことがまるで無かったかのように、奴はまた話を始めてしまったが、そこにいる相手は一体何者なのであるのか、あれこれといちいち気にして突っ掛かるようなことはせず、黙って悠人は話を聞いていた。
『……な~んて、私の自慢話はこれぐらいにして、長々と喋ってしまって何を伝えたかったのかと言うと、つまりはメンバーの誰もが何かしらの才能を持った人物、ヘアムちゃんに選ばれし七人が集うグループこそ、このゲームのサポートをしている集団ってこと。理解したかなー?』
ようやく話に見切りが付いたところで、ようやく悠人は口を開く。
「要は何かに秀でた人物のみで構成されたグループ、それがこのゲームのサポートをしている集団の人物像と言う訳か………。なら次に聞くが、
『そんなの、メリットがあるからに決まってるじゃないですかぁ~!へアムちゃんの指示に従っていれば、取り敢えず命は保障される。
そして手伝いをしていれば、悠人ちゃん達
誰だって、死ぬのは嫌じゃん?要は自分の命欲しさにやっているってこと。
「……ああ、理解したよ。誰だって自分の命ほど愛でるべき対象は無いものな。あんた、自分に正直過ぎるぜ」
『そ・れ・よ・り、妹ちゃんはいつまで泣き叫んでいるんですかぁ?このドローンちゃんに内蔵されてるマイク、中々に音拾っちゃってそれはそれはうるさい声が聞こえまくって、ほんと
瞬間、その言葉で彼は気付いた。
斬月の背に何か……おそらくあれは爆弾が付いていることを。
今から彼女に呼び掛けたところで間に合う筈が無い。
どうすれば………
誰もが一旦は考えてしまうところを、彼は迷い無く行動に出た。
「間に合え!」
彼は貯蔵していた変幻自雷の能力を開眼し、ある小さな雷獣を生成。
それは物凄い速さで駆け出すと、一瞬にして小型粘着爆弾をひっぺがし、その瞬間爆発。
斬月は
それでも爆弾の威力はなかなかのようで、あろうことか顔の左半分を半壊し、彼女の元から左目が吹き飛んだ。
だがそれでも、右目までもが彼女の身体から離れなかったが為に、命は助かった。
被害としてはこれでも大きいものの、これには奴が黙ってはいなかった。
『はぇ?妹ちゃん、なんで助かってんの?悠人ちゃん、このカラクリを教えてくれるかなぁ?』
「あんたは知っている筈だぜ。彼女の雷の力を」
『………つまりその力で何かを生成したってこと?けど、何を?単純に足の速さならチーター?
でもでも、スピードならハヤブサだよね。泳ぎならバショウカジキが一番だけど周囲に水辺らしきものは無いしねぇ~。
そ・も・そ・も、それのどれかだとすれば、そこそこの大きさはある筈じゃん。だったら、見逃す筈無いのに』
「……どんな動物も初速から全速力のスピードを出すなんてのは無理だ。手足を動かしていく内に動きが加速していき、スピードってのは出る。だが、ゴキブリだけは例外だ。
奴はスタートダッシュからとにかく速い。ほとんど最高速度を初速で出せるって話だ。そこで俺は思った。瞬発的速さを可能とさせる奴のフォルムを再現すれば、もしかすれば間に合わないことは無いんじゃないのかってね。
ぶっ飛んだ話だが、こいつに賭けて正解だったぜ。完璧………とはいかなかったが、最低でも彼女を救うことは出来たからな」
初速度だけで言えば、雷そのものを飛ばすのが一番だっただろう。
だがしかし、あくまでも目的は斬月の背中に取り付けられた爆弾を引っぺがすこと―
そう、単に雷を飛ばしてしまうだけなら下手したら爆弾に衝撃を与えて爆発するところだったのだ。
だからこそ、悠人はあの一瞬の間に考えていた。
ただ雷を飛ばすのでは無く、初速度を出来るだけ落とさずに衝撃を小さく密度の小さい物体を作り出す必要性があることを―
その先で彼が導き出した答えこそ、例の形状だったのである。
『面白いねぇ、悠人ちゃん。正直、ただの特殊監視対象としか見ていなかったんだけど、闘いの中で見せる普通なら考えもしないような奇抜な
そう言って、ドローンは飛び去ろうとする。
だがその瞬間、悠人は駆け出し――
「――そうかよっ!」
右の拳に雷を
『……………………え゛っ…………』
最後に音質の悪い驚いたような声を残すと、ドローンは中の爆弾と一緒に派手にぶっ壊れた。
瞬間、大きな爆発によって引き起こされた爆風により勢いよく身体が後ろへと飛ばされる。
おかげで彼の身体は乱月の二の舞になるような人体飛散は
「お前らのような連中
悠人のまさかの行動に、気付けば斬月は泣き叫ぶのをやめ、心配になって右手を負傷した彼の元へと駆け寄った。
「……こんなにも手をボロボロにさせて………………
「あんただって、顔を損傷してしまったんだ。お互い様だろう。………俺はただ単純に、この手で
「……ありがとう、ゆうと」
「……感謝されるようなことはしてない。だってそうだろ、俺はあんたの命を救っても、妹の命は救えなかった」
「それでも、私の妹の為に怒ってくれた。ただ泣いていただけの無為無能な私と打って変わって、思いを、怒りを奴にぶつけてくれた。それだけで私にとっては、感謝すべきことなのです」
「…そうか……………」
悠人がそう答えると斬月は立ち上がり、地面に落ちた自分の左目と乱月の両目の神眼を回収するように手を動かし始めた。
それら全てを回収し終えると、斬月は再び悠人の元へと歩み寄り―
「これは私からの感謝の印です。どうぞ、受け取って下さい」
彼女のオリジナル-
「それ………あんたの左目じゃねぇか。なんで自分の神眼を………………」
「……爆発で片目を外され、それを埋め合わせするのに、一番は自分が使っていた神眼を移植することこそ、能力を知り尽くしている点や使い慣れている点から見ても、それが当然の流れなんだと思う。
でも私は、乱月の
難しくて簡単に伝えることは出来ないけれど、とにかく移植するなら私はこの目を選ぶ。この目と共に、私は乱月と共に成長するんだ!強くなるんだ!
もうこんな悲しいことは経験したくない。だから…………けど……今の私にはこの目を移植してくれる当てが無い。どうしたら良い…………」
困惑する斬月に対し、悠人は助力を惜しまなかった。
「繋がりを感じさせられる……か。こいつを受け取るかどうかは別として、妹の神眼を移植したいってことなら、良い眼科を知っているからよ。案内するぜ」
「でしたら、その前に……………」
そう言って、斬月は妹の形見の愛刀である【名月】を慌てて拾い上げ――
「これも………妹の形見の小刀もまた、
二人は例の場所へと歩み進めるのだった。
そして
「ちっきしょー!あわよくば
一人寂しく空中飛行していたのであった。
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[あとがき]
デスゲームものにはよく
ゲームマスターでそのポジションキャラを出せないなら、ゲーム
ヘアムの協力者のうち生粋の日本人は冴子一人だけであることもあり、そう言えば乱月は彼女のことを慕っていた様子でしたが、あんな感じでも同じ日本人だからこそ話の通じやすい彼女の存在が一番気兼ねなく親しみやすかったのでしょうね。
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