⒍ 刮目(2) 本音
「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………………」」
かれこれ三十分以上は過ぎただろうか、両者は向き合った状態で硬直したまま、息を荒げていた。
「……姉さんは見た筈。ここを訪れる時、巨大な鳥のような生物がここを飛び去るのを。おそらくそこには、あの男も乗って逃げている。
「……『
「えっ?」
唐突に姉の口から発せられたその言葉が何を伝えたいのか、困惑する乱月。
「……えっと、取り敢えずは最後までお姉ちゃんの話を聞いてくれると嬉しい、な?……あの…ね、このゲームが始まって二日目のことなんだけど、その日、食べる筈だった携行食を無くしてしまって………………」
姉が
「……ロクな食事も取ってなくて、情けないことに力出ず、空腹のあまりその場で動けずにいた私は、差し出がましいとは思いつつも………、
通り
「素直に嬉しかった。これまで任務や生き抜く為にと人を殺し続け、何一つ良いことなどしてこなかった私に、その人は………ゆうとはそんな私を見過ごさなかった。わざわざ食べ物を買ってきてくれまでして、渡してくれた。
ゆうともまた、一人の
この時、空腹のあまり食べ物を恵んでもらえたのは素直に嬉しかった。けどそれ以上に、多くの人を殺してきた潔白とはほど遠い黒く汚れた手に向かって差し伸べてくれたその手が、その心遣いが嬉しかった。
それに感化されちゃったのかな。私自身の意思が…………誰かを助け、守る為にこの力を使いたいと思ってしまった。
それが殺してきた人達に対する、せめてもの
これはあくまで自分がそうしたいと思って行動しているだけ。純粋に己の生き方を変えたいと思ったんだ!」
「……何ですか、それ」
そして――
「何を言うかと思えば………自分以外の者を助ける?守る?―ふざけないでっ!
それで誰かの為に犠牲になって命無くしたりでもしたら、ここまで生きてきた元も子も無いじゃないですか!」
乱月の中で〈怒り〉と〈悲しみ〉その二つの感情が混雑したような――、己の複雑な感情が抑えきれず、それが爆発的となって姉を怒鳴り立てる。
それを聞いた姉-《斬月》は自分の意思を大切する上で妹に反発するかと思えば、相変わらずのマイナス思考に向かってしまい………
「……
良いんです、良いんです、どうせ私なんか……………」
「本当、そういうところなんですよ!何も姉さんの実力が無いとは思っていません。むしろそこらの
私が言いたいのは、姉さんのそういう根っこの部分が……自分自身に自身が持てないままで、人を助けられるぐらいの――守れるくらいの――余裕と心構えが持てるかって言っているんですよ!」
「―――ッ!」
瞬間、斬月は大事な……それもごく単純なことに気付かされた。
(……乱月の言う通りだ。私は弱い。………心が。そんなことでは駄目だ。駄目なことは分かっている。だからってすぐにこの性格が直る訳じゃあ無い。
………けど、けど少しずつ、この性格を直していく努力はしたい。………ううん、そうじゃない。そうするんだ!
私自身――、生き方を変えたいと思ったのだから)
彼女が彼女なりに
「……ごめん、乱月」
「ほんと、何百年ぶりに姉さんと喧嘩したことだか。それもいつも私の一方的勝ち喧嘩。
あははっ、久しぶりに姉さんの本音が聞けて良かったよ」
「乱月………」
「でもね、姉さん……………」
この続きを言うかと思えば、乱月は姉の元へと近付き――、
「それとこれは別。どうせ姉さんのことだから、食べ物を恵んでくれた恩人だからと助けようとしていたんだろうけど、姉さんが純潔をくれたあの男だけは抹殺したいと思っている。
あんな男は………あんな男は………姉さんを狂わしたあんな男は殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる…………………」
彼に純潔-《斬月の唇》をあげたことへの怒りに任せて片手を振り上げ、気付けばその手に雷を
「がっ…………ぐあぁぁあああああああああああぁぁぁぁ――――ッ!」
雷撃という彼女の怒りの瞬撃が打ち付けられる。
「これ以上、あんな男の為に姉さんが頑張る必要はありません。そこで大人しくしていて下さい。すぐに奴を始末しますので」
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