⒊ 武視(4) 秘密の研究室
軽バンを走らせ出て行く様子を屋敷の窓から見届けるブシュラ。
「さてと
ブシュラは発射され地面に転がった
作業台とも言える鉄製のテーブルの上に二振りの短刀を置いた。
「栞奈には悪いが、この刀をちとイジらせてもらうぞ」
するとこの前に使用した電動ドリルを引っ張り出すや否や、柄の先の部分に穴を開け始めた。
サンドペーパーで
その正体はネオジム磁石。
《永久に減磁しない》で【永久磁石】とも言われているそれは、外部から磁場や電流の供給を受けず安定した磁場を発生し、それを長期に渡って保持し続ける強力な磁石と評されている。
刀身との間に磁力が働かないよう、鞘に収められた状態で穴を開けた部分にそれを
そうして二振りの短刀の柄の先に磁石が嵌め込まれると、今度はその磁石より少し高い位置に貫通穴を開け始めた。
こちらも同様に研磨すると、後は前と同じである。
その穴に
「取り
……それは、栞奈が
あの事故で親に見捨てられ、行き場を無くした女の子-『
それは喜ばしいことだが、小学生を
学校たるもの、一種の教育の
実はそのことで使いのメイドに話を聞かされていた。
「本日は
ですので私かリンジー、
「私も
まず一つに【正しい文章力を身に付けるため】
二つ、【気持ちを他人に伝えられる力を身に付けるため】
三つ、【頭の使い方を学ぶ】ことにあると私は考えている。
それを授業参観という形で親にその成果を見せる訳だが、正直に言って
まずは
そう言って、チラッと
どう見ても
「……なるほど、分かった。仮に保護者が来なかったのが
輪になって対立する三人の美女。
掛け声をとったのはブシュラだ。
「
フランスでもじゃんけんは
勝負はすぐに片が付いた。
キツネ耳のメイドはグーを、イヌ耳のメイドとブシュラはパーを出した。
「では頼んだぞ、ジョジョ」
「承知しました。では
じゃんけんに負けたキツネ耳のメイド:『ジョジョ・ユ=ルナール』は素直に従い、
「……考えていても仕方ない。その間に開発途中の《義眼》の進展を求め、研究の続きといこうか」
そう言って出来上がった武器をテーブルの上に放置して、開発室の奥にある一枚の扉の前へと足を進めたブシュラ。
いかにも強固そうな金庫扉の
扉の横にあるパネルに手の平を押し付けること数秒。
ブシュラの指紋を認識し、分厚い扉はゆっくりと開き出す。
中に入るなり、その扉は自動的に閉じ始めた。
部屋の明かりを付けると、まず目に付くのがズラリと並んだ数多くのスチールラック。
そのラックに乗せてあったものは、等間隔に並んで置かれた小型のガラス円筒だった。
ホルマリン漬けされた数々の動物の〈眼球〉が中に保管されており、その中には協力者に余分な回収を任せ、ヘアムに【報告】をしていない
その内の一つ、神眼が保管されたガラス円筒を手に取ると、彼女は多くの視線を浴びながら、一直線に奥へと進んだ。
彼女が行き着いた先に広がっていたものは、壁に張られた謎の設計図の数々、それと怪しげな機械類や本格的な顕微鏡が置かれた作業台、隣には研究器具を洗うためのちょっとした水回りやそのような器具が
作業台の前に置かれたメッシュ製のリクライニングチェアに腰掛けると、ひとまず持っていたガラス円筒をテーブルの上に置き、近くの棚からは注射器とピンセット、それと小さめのガラス板にスランドグラス、カバーガラスを取り出した。
一応消毒はしているが一度それらを全て水洗いした後、円筒の
取り出した眼球をガラス板の上に置き、注射器のプランジャ(可動式の押子)を押し込んでから注射針を眼球に突き刺した。
プランジャからゆっくりと親指を離し、神眼の中の成分(
スライドガラスの上に抽出した成分を一滴垂らし、カバーガラスをその上に
これをステージ台、それも自動ステージと呼ばれた電動動作で位置決め出来る台の上に乗せ、接眼レンズを
自動ステージの下から照らす
「……いつ見ても、この複雑性には心
どの組織も地球上に存在しないものばかりで、今のレベルの科学力ではそれらの詳細な解析はまず不可能だろうな。こいつは持ち主の元から離れてから一ヶ月近くは経つものだが、相変わらず細胞の活性が続いている。
……やはりどの細胞も分からないものばかりだが…………この細胞の作り……こいつは幹細胞に非常に近いな。こいつは……凄いぞ。驚異の速さで分裂を繰り返し、細胞が必死に生きようとしているとでも言うのか?面白い……面白いぞ…………。
これらの解析が難題であればあるほど、こいつの持つ異界な力の正体を解明したいという、私の中の
少なくとも、これらが不老の効力と生命エネルギーを生み出す働きを持っているのは明白だが、その組織を
これまでの知識を頼りに少しでもそれに近いものが出来れば……そうだな、これまでの研究データと比較もしながら、違う視点から見たりもしながら、あれをこうして……………」
そう言って機械の一つの投影機を起動させると、平べったい映像の[空中触覚タッチパネル]が表示され、それに反応するタッチペンを手に取るなりパネル上に複雑な化学式を書き連ねる。
ずらずらと思い付く限り、可能性の一歩へと突き進もうとするブシュラ。
良く見れば、壁中に張られた設計図にも別の化学式の数々が書き連ねているではないか。
「……この考え方は違うか。ならば現存する組織から近い組織と比べてみて何かしら発見出来れば…………これも違う。少し発想を変えてみて……………」
よほど頭を悩ませ続ける様子の彼女であるが、人知を超えた組織の解析はそう簡単に出来ることではない。
だが、彼女は決して諦めないだろう。
まだ誰も知らない謎を解き明かすこと。
研究者にとって、これほど心が
「……
高らかに神眼の力を手にすると誓いを立てたブシュラであった。
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