⒎ 目茶(9) 約束が……約束が………

「それで例の自動販売機の場所まで来たのは良いのですが、そもそもここにはいない筈では?」


 あの後、未予達はあの場から何キロか移動をし、話には聞いていた例のヒビ割れた自動販売機の前に来ていた。


「ここが偶然にも見つけたあの男の最初で最後の手がかりとなる場所ですもの。

 ここを起点きてんに私の【未来視ビジョン】を駆使していきながらの方が、おもむろに動き回るよりも遥かにあの男の居場所を見つけ出せる確率が高い筈よ」


 取りえず震災でボロボロになった住宅地とだけ魔夜に伝えると、二人は別行動を開始した。


 結果的に言えば、その場所はすぐに見つかった。


 探し出したのは未予であり、そこでいつもとは違う彼の姿を目にした。


 そこかしこに水膨みずぶくれができた痛々しい皮膚が目に映り、ふくれた箇所は全て気味の悪いオレンジ色をしていた。


 未予は急いで駆け込むと、リンジーから貰った小瓶の中身がからになるまで、彼のありとあらゆる部分に垂らしていった。


 すぐにれが引き、皮膚ひふの変色も綺麗きれいさっぱり無くなっていく。


 何度見ても驚くべきその修復力に、思わず息を飲む未予。


 その後すっかり元通りになった頬を軽く叩くと、彼の意識は戻った。


「………あっ……」


「どう、気が付いたかしら?」


「……み、未予?どうしてここに?」


「君が今日の分の神眼を回収したのかどうか確認しようにも、携帯の充電が無いようだったからこうして直接確認するために出向いたものの、まさか――死ぬ瀬戸際せとぎわにいたとは。都合良く私が良いものを持っていたから、命拾いしたわね」


「そうか。心配かけて悪かったな、未予」


「ってあれ、そう言えば………」


 ここで彼はあることを思い出す。


「季世恵は?赤いパーカーを着た女は見なかったか?彼女にはこのびしょ濡れになった服を弁償してもらう約束しているんだ」


「赤いパーカー……そう。君と一緒にいたのね」


「何か知っているのか?」


「いいえ、なんでもないわ。近くにはいないみたい。それよりも、神眼は無事回収できたようね」


 彼女の視線につられて悠人もそちらに視線を向けると、いつの間にか奴の片目が手の中にあったことを気付いた。


「あれ?いつの間に………」


「では問題も解決したことだし、メガネには連絡を入れないと」


「魔夜さんも俺を探していたのか。どうやら今回、二人には迷惑をかけたみたいだな」


「そうね。こっちはこっちで大変だったもの」


「本当にすまない。……これからは許す限り充電するわ………」


「何?すまないって言った後、小声になってよく聞こえなかったわ」


「た、大したことじゃないから、忘れてくれ」


「あっ、さっきのは嘘よ。これからは出来るだけ充電すること、良いわね」


「い、以後いご気を付けます」


「しっかりして貰わないと困るわ。まだまだ始まったばかりなんだから、【ピヤー ドゥ ウイユ】というゲームは――」


 未予は最後にそう言って、魔夜に彼を発見できたことを電話で伝えるのであった。

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