第一部 ⒌ 暗目

⒌ 暗目(1) 清々しい朝

 四月十一日 土曜日の朝――


 いつも通り朝食を作る目崎めざき悠人であったが、今日の彼は鼻歌を歌っていて、何処どこか上機嫌な様子を見せていた。


「いやぁ~、昨晩未予からメールが来たと思ったら、あの魔夜まやって女子生徒が、新たに手を組むってことになったらしいじゃん。

 だからそいつの取り分だった神眼しんがんが追加されたことで、今日一日はあのクソゲームをやらずに生き延びることが出来るって連絡を、寄越されたものだから………こりゃあ喜ばずには、いられねぇってもんよ!」


 どうやら彼が朝から機嫌が良かったのは、それが理由だったようだ。


 出来上がった料理をお皿に盛り付けると、彼は妹の目崎紫乃を起こしに二階の彼女の部屋へと上がり込んだ。


「おーい、朝食出来たぞ~!」


 ふわぁ~っと欠伸あくびを漏らして柴乃はベッドから起き上がると、ここ最近元気がなかった悠人がいつにもして大声で起こすものだから、思わずみだれたパジャマ姿を直すより先に言葉が出ていた。


「おはよぉ~、兄さん。なんか良いことでもあったの?」


「えっ?……まぁ、そうだな。何かとは言えないが、良いことがあったってのは確かかな」


「……そっか。何だか知らないけど良かったよ」


「良かった……って、なんだよ唐突に………」


「だって、兄さん。ここ最近元気なかったから、兄さんの元気な顔が久々に見れて私嬉しいの」


「お前って奴は……。俺はこんなにも優しい妹に心配されて、しあわせ者だよ」


「幸せ者だなんてそんなこと………」


 直後、柴乃の顔が赤く染まり、彼女はその顔を隠すかのように後ろを向いた。


「どうしたんだ、後ろなんか向いて?」


「に、兄さんは先に行ってて。私もあとから朝食を食べに降りるから」


「そうか?じゃあ俺はバイトに行ってくるから、後でちゃんと食べろよ」


 バタンッと部屋の扉が閉じる音を確認すると、柴乃は近くにあった枕に顔をうずめ、きゃ~っ!と言いながら足をバタバタさせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る