⒋ 分目(5) アルバイト開始

 とあるスーパーマーケットのバックヤード内にて――


「本日よりお世話になります、目崎悠人です。これからよろしくお願いします」


 お店のロゴがプリントされた指定のエプロン姿で先輩店員たちを前に挨拶あいさつをする悠人。


 始めに先輩店員から簡単に仕事上での説明を受け、そこで彼は試食販売のアルバイトを受けるにあたって、その実力や如何程か――


 早速、実践形式で試されることになった。


「いらっしゃいませ。こちら――、自社製造商品のこだわりのチーズを使った、ミニトマトグラタンの試食をおこなっております。

 是非ぜひ一度、お召し上がり如何いかがでしょうか?」


 我が家の家事で身に付けた料理スキルを活かし、自社チーズの販売促進としてひとまず彼なりのオリジナルグラタンを作った悠人は、通り掛かるおばさま方に声を掛けていく。


 すると何人かが反応をしめし、ミニトマトグラタンを口にしていく。


「これは貴方が作ったの?」


「若いのにやるわねぇ」


「はい、こちらのグラタンで使った具材は全てウチのスーパーで扱っている商品ばかりでして、味付けは―」


 早速主婦達の胃袋を掴んだ彼の料理を前に、どれどれと女店長も主婦に混じって試食を始めた。


 一口食べるなり、わなわなと身体を震わす女店長。


 もしやお口に合わなかったのではと、冷や汗を垂らす悠人。


 結果は――………


「合格よ。これなら文句無しに任せられるわ」


 どうやら店長は単純にその味に感動していたようだ。


 なんにせよ評価されたのであれば、これほど嬉しいことはない。


「ありがとうございます。店長」


 彼が素直に喜んでいると、主婦しゅふ達からも嬉しいお言葉を頂いた。


「このチーズ、お一つ買おうかしら」


「今晩はグラタンで決まりね」


「お買い上げ頂き、ありがとうございます」


 悠人はお客様にお礼を言うと、営業的なものではなく真心まごころ込めてスマイルを送った。


 その笑顔はピヤー ドゥ ウイユが始まって以来見せなかった、なんとも心穏こころおだやかな顔であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る