第一部 ⒋ 分目

⒋ 分目(1) ツナ玉

 ゲーム開始三日目――


 朝六時を迎えた目崎家では、ただ今お食事の真っ最中さいちゅうであった。


「紫乃、昨夜はその、帰りが遅くなってしまって悪かった」


「だ・か・ら、兄さん。もうそれは良いって言ったじゃん。それに今日は食卓に兄さんオリジナルのツナタマがあるから、これでチャラってことで許す」


 悠人オリジナル【ツナ玉】――それは紫乃の好物である、その名の通りツナと卵を使った料理である。


 調理方法は実にシンプル。まず始めに調理用ボウルの中に《卵》と以前に喫茶店でどさくさに貰ってきていた《コーヒーフレッシュ》を一個入れて、良く掻き混ぜていく。


 次に、市販のツナ缶から中身を取り出し、それをいためていき、フライパンの表面にツナの油が広がったところで、溶き卵を投入。


 その後、ツナと卵をからめていくのだが、その味付け方法が少し変わっており――


 用意するものは《めんつゆ》とこれまたちゃっかりコーヒーフレッシュと一緒に入手していた、コーヒーに使用する《スティックシュガー》の二点。


 めんつゆを少々、合わせて一本のスティックシュガーを入れて軽く炒め、玉子の固さはお好みのところで火を止めてツナと程よく絡んできたところで、お皿に盛り付け完成となる。


 元々致命的に料理下手な妹の為、彼なりに包丁も使わない簡単な料理を考案こうあんしたものがこのツナ玉なのだが、一度彼女に作らせてみたところめんつゆを多量に入れ過ぎ、とんでもなくしょっぱいものが出来上がったことは、目崎家の苦い過去である。


 紫乃は大好きなツナ玉を頬張り、とても幸せそうな笑顔を見せた。


「あっ、こら!そんな一度に口の中入れてないで、もう少しゆっくり食べたらどうなんだ。ほら、玉子が付いてるぞ」


 悠人は妹の口元に付いた玉子をつまみ上げると、それを自分の口の中へと放り入れた。


「……さりげなくそんなことするのは、卑怯だよ」


「ん?何か言ったか、紫乃?いやそれよりも、これめてないか?」


「……そそ、そうかな?普通だよ、兄さん」


「そうか?じゃあ俺は先に済ませたから、紫乃も食べ終わったらお皿片付けとけよ」


「もう!そんなこと言われなくても分かってるよ」


 こうして目崎家の朝は始まるのだった。

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