⒊ 視忍(2) やっと働ける

 布都部ふつべ高校一学年のとあるクラスの教室にて―


「ふー、ギリギリ間に合ったぁ」


 あの謎の忍者ガールとの出来事を脱したあと、彼が自分の席に座るのと学校の始業しぎょうベルが鳴り出すタイミングはほぼ同時だった。


「おい、目崎。入学してまだ三日だと言うのに、時間ギリギリとはどういうことだ!」


 朝からお怒りのご様子を見せるこの人物は、彼のクラスを担当しているベテランの男性教師-柊恭次郎ひいらぎきょうじろう先生である。


「すいません」


 実は……今朝通学路に変な忍者がいまして足止めを……なんて訳の分からないことは言えず、彼は即座にあやまり、こうして本日の高校生活一日が始まった。


 午前中は数学・化学・生物・地理の四時間にわたる授業を受け、一度昼休みをはさんで午後は体育・英語の二時間授業をおこなった。


 そして放課後をむかえるのだが、彼はすぐに学校を出ず職員室へと足を運んだ。


 扉の前で二回程ノックしてから『失礼します』と一声掛けたのち、彼は叩いた扉を開けると室内を見回し、目的の人物の元へと歩み寄った。


「先生、これに署名と捺印なついんをお願いできますでしょうか?」


 そう言って彼が取り出したのはアルバイト許可証だった。


 本来なら親の承諾書しょうだくしょがないと駄目だが、この学校の校長、それと担任教師はあらかじめ彼から複雑な家庭事情を聞かされているため、その点の諸事情しょじじょうに対する問題はクリアしている。


 すでに校長には許可が下りていて、後はひいらぎ恭次郎先生からサインを貰うだけだった。


「その声は目崎か。ちょっと待っていろ」


 先生はそう言うと、デスク周辺の教材を簡単に整理し、いたスペースにその許可証の紙を置いて、署名と捺印を済ませた。


「よし、終わったぞ。それにしても目崎、この年で相当そうとう苦労しているものだな」


「その、今となっては割と慣れたことですから。児童相談所にも話、きちんと付いていますし」


「……そうか、そうか。でも君はまだ未成年なんだ。何か困ったことがあったら、いつでも私に相談しにきなさい」


「分かりました」


 くして、悠人の本日の学校生活はこれにてまくを閉じるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る