第3話 加減が分かんないんだよねbyフジミヤ

俺、なんか殴られてるんですけど。

どうも無いけどね。

あんまり元気無いし、とりあえずうつ伏せのままでいよう。


「俺の教育を邪魔した上に、てめぇの血で服まで汚してくれやがって。

俺に逆う生意気ヤローはぶちのめしてやる!」


叫んでいらっしゃる。


「カイリ様すみませんでした、って言えたら許してやるよ。

ほら、どうだ?」


俺の前髪が掴まれ、グイッと持ち上げられる。


ちょくちょく意識が飛んでるんで、ここがどこだとか、その他状況が掴めてないんだが、とりあえず俺の目と鼻の先のこいつが誰なのかは分かった。

今朝、俺の通学途中にヨシトモに絡んでた変な髪のでかいやつ。

医務室でのヨシトモとの会話に出て来た、俺の知らない名前。

それがこのカイリだ。


自分で様付けちゃうなんて、よっぽどのナルシストだよな。


「なんとか言えやコラッ!」


こーんな近くで怒鳴るもんだから、俺の顔にツバが飛んでくる。

とても不愉快なので、ここはひとつおちょくってやる事にしよう。


「なんとか」


「あ?」


「なんとか言えって言ったから。

一回じゃ足りねえか?なんとか、なんとか」


『ガッ』


直後、俺は顔面を蹴り上げられ、後ろに大きく仰け反った。

今度は仰向けか。


「ざけんじゃねーぞてめぇ!」


天井は、一面むき出しのコンクリートだった。

明らかに学校とは違う。

どこか別の場所だな、ここは。


横を向いてみると、天井同様コンクリの壁がある。

その壁のすぐ近くに、金属っぽい長い棒が沢山積み上げられているのが見えた。

建設途中の建物って感じだな。


「言っとくがなぁ、てめぇが泣こうが喚こうが助けは来ねえぞ。

ここは建設中止になった廃ビルだからな。

言わばカイリ様専用の処刑場よ」


ああ、そうか。

それで俺はここに連れて来られたのか。

そう言えばそうだった気がする。


「おら、立てよ」


寝たままの俺に、カイリが蹴りを入れてくる。

こいつの言いなりになるのはシャクだが、俺もさっさと学校に戻ってヨシトモの味噌汁を飲みたいので、折れてやる事にした。


ゆっくりと立ち上がるが、あくまでこれは貧血のせいである。

転落や交通事故に比べれば、殴る蹴るなんて子犬同士でじゃれ合ってるようなもんだ。


「立ったぞ」


カイリが顔をしかめた。


「てめぇ、随分元気じゃねえか」


「俺は不死身だからな」


「なんだ、頭がイッてるだけかよ」


正直に答えてやったのにイカれ扱いされたら、誰だって腹が立つよな?

だから俺も言い返してやった。


「お前、ひとの頭に文句付けてるけどよ。


お前の髪の毛も大概だぞ」


ってな。

すると、カイリはすぐストレートの構えに。


どうせだから、イッた頭とやらで反撃してやろう。

俺はカイリの拳を、頭突きで迎え撃った。


『ゴツッ』


「ぐっ」


おお?効いてるみたいだな。


カイリは右腕を引き、痛みで顔を歪めている。

だが、もう一方の左腕によるボディブローが、俺の腹に炸裂した。

貧血のせいで、素早い対応は出来ない。

さっきの拳骨対頭突きでは、カイリの予備動作が大げさだったのが幸いしたのだ。


ま、これも効かないんだけどね。


「なあ、カイリ」


「あぁ!?」


「俺は不死身だし、痛みも感じない。

暴力や恐怖で俺には勝てないぞ。


どうすんだ?」


さっきの頭突きがこたえたのか、カイリは身構えてはいるものの、追撃をして来なかった。


「ヤロー…」


「ハッタリだと思うか?ならもっとやってみろよ」

俺は腕を広げてみせた。


「逆によ。

てめぇが詫びりゃすぐ終わんだろうが。

なあ」


「詫びる?こっちのセリフだね」


「んだとぉ!?」


思い出したんだ。

こいつは俺の大事な塩水を踏み潰してくれやがった。

カイリにとっちゃただの水だったんだろうが、知らなかったでは済まされない。

それにヨシトモの件もある。


「お前、俺の水を踏み潰したろ」


「は?水ぅ?」


「今朝のアレだ」


言葉にしてみると、より一層怒りが湧き上がってくる。


「ッハ…たかが水だろ?貧乏かよ」


カイリに鼻で笑われ、俺は爆発した。

グッと一歩踏み込み、全体重を右拳に込める。


「アレはな…俺の命の水なんだよっ!」


『ボグッ』


あそうそう。

俺、加減が分かんないんだよね。

常人で例えるなら、リミッターが完全に外れてるって感じか。

ガキの頃はあちこちぶつけて血まみれになったりもしたが、逆も真なり。

俺はあくまでも不死身でしかないが、このおかげで肉体への負担や反動を一切気にしないで良い。

馬鹿力まで行かなくてもそれなりのパワーは出せる。


大の男を吹っ飛ばせるくらいにはな。


「ぐぁぁ!」


ドゥンッと気味の良い音を立て、カイリが不時着した。

さっき俺がされたように、仰向けで天井を眺めている。


「どうだ…」


ワンパンかましてやったがその実、立ってるのもちょっと厳しい。

ここでぶっ倒れるとカッコ悪すぎるので、膝を少し曲げ、そこに手を突く。


「今度はお前の番だ。なんとか言えよ…」


形成逆転だな。

どう出てくるか楽しみにしていると、カイリは右腕を振り上げ、


『ドッ』


地面に振り下ろした。


「ん?」


「クソッ!」


もう一度。


『ドッ』


「クソクソクソクソクソクソクソォッ!クソッ!」


カイリはクソの二文字の度に、同じ所を殴り付けた。

俺にやり返されたのが相当嫌だったみたいだな。


「クソ!クソ!クソ!」


狂ったように地面を殴るその姿に、俺はあるテレビ番組のボタンを思い出した。

押すと声がして、押した回数がカウントされる。

数えてはいないが、あのボタンにならうなら、合計で12クソくらいになったか。

いかん、ちょっと笑ってしまいそうだ。


カイリは左側の地面に着くんじゃないかってくらい、最大限に右腕を振りかぶった。


「クソォッ!」


カイリの13クソ目の拳が、何の罪も無い地面に叩き付けられる。


『ドゥオオオオオオン』


その瞬間、地震が発生した。


「おわっ!」


俺は立っていられず、尻餅をつく。


「何だよ急に…」


いや、地震は通常急に来るものか。


天井からコンクリートの破片がパラパラと落ちてくる。

カイリの方に目をやると、そこには誰も居ない。


「えっ」


代わりに、余裕で人間が収まりそうな大きな穴がポッカリと空いている。


「こんな穴、さっきまで無かったぞ…」


何だこれ?

カイリはどこだ?もしかしてあの穴の中か?


「くっ、ハハハハハハッ!」


穴の中から笑い声が上がる。


「なんたこりゃあ!?そんな事が起こり得るのかよ!?」


カイリの声だ。


「なあ、不死身くんよぉ」


惜しいな、フジミヤだ。

と、からかう余裕は無さそうだ。


穴からカイリの右手が這い出す。

その手の甲は、俺の頭突きと自分の13クソによって傷だらけになっている。


「てめぇが不死身なら…俺様は馬鹿ヂカラかも知れねえぞ?」


穴をよじ登り、カイリが改めて全身を現した。

外見に変化は見当たらないが、その表情には力と自信がにじみ出ている。


「意味分かんねえよ…まさかさっきの地震、お前が起こしたってのか?」


「俺様も良く分かんねえけどよ……」


カイリは首を回し、両手を重ねてパキパキと鳴らした。

俺をボコる前の準備運動ってか。


「不死身と馬鹿ヂカラだったら……どっちが勝つだろうなぁ?」


「矛盾…ってやつか」


こいつはちょっと…ヤバイかも。

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