第7話 行くべきか、出るべきか (6)

 進路希望調査の〆切までもう一週間を切っていたので、芝田君の実家への連絡は事後の通達のような形になってしまった。


 立体動画通信で実家の両親に「俺、色々考えたけれども、もう一周行く事にしたよ」とだけ簡潔に連絡した。今の船の位置からだと、地球との交信は光速度通信で往復十分程度かかるので、電話のようなダイレクトな会話はできず、文通のような交互のやりとりになる。

 今の芝田君にとってはその不便さが、実家からのわずらわしい圧力を弱めてくれるので逆にありがたかった。


 今日のところは、吉川さんの存在は実家にはとりあえず黙っておいた。あくまで仕事のキャリアを考えた結果、もう一周する事にしたという形で伝えている。

 何しろまだ地球到着まで一年四ヶ月もあるのだ。吉川さんを親に紹介するのは、地球到着の一年前くらいでいいだろう。その時点で親がどんなに結婚に難色を示したところで、もう進路希望は出してしまっている。少なくとも一周の四年間は地球を離れるという事は決まっていて、今さら変更はできないのだ。


 こんな重大な人生の選択を、親に一切相談せず、全て事後連絡で決めてしまうなんて、ひどい息子で親に申し訳ないという罪悪感はあった。しかし、もともと芝田君は親との関係が普段からそんなに親密なほうではなく、成人後は親もあきらめて放任気味だった事もあって、芝田君の親の反応は実にあっさりとしたものだった。


 芝田君と吉川さんは、一年四ヵ月後に地球に着いたら、地球勤務の同期生や地球在住の友人たちを招待して地球で結婚式を挙げようと、すぐに準備を始める事にした。


 輸送船「しきしま」に限らず、どの国のステラ・バルカー級輸送船でも、船内の結婚式場が最も混雑するのは地球に停泊している一ヶ月間である。そして、入籍の届出が最も多いのは、進路希望調査の提出〆切りの前後四ヶ月間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る