主人公最強とか位置付けられたウチは、今日も今日とて敗北出来ないらしい。
恒石涼平
第1話 どうやら異世界でもツッコミを入れるらしい。
「――なんでやねんっ!?」
ウチ、
目の前の自然溢れる光景と倒れ伏した大きな黒い影。
振り返るとこちらを
先程自分の手の平から出た極太のビームについては、まぁとりあえず置いておいて。
「……えっと、ハロー? でええんかな?」
「あっ、あんたっ!? なにもんだ!?」
「超西洋風のおっさんやのに日本語ペッラペラやな!?」
人々の中で言葉を返してくれた蒼い瞳に熊のような髭を蓄えたおっさんも一先ず置き、どうしてウチがこの状況にツッコんでいるのか、どうしてこんな場所に居るのかを説明させてほしい。
「――はぁ、上司さんの話長すぎやわぁ……」
ウチは日本という国に住む普通の公務員だった。
関西のとある地域で役場に務め、オジちゃんとオバちゃんが七割を占める受付業務を担当していた。
来る日も来る日もお節介でお厄介なオバちゃんに飴ちゃんを渡され、書類を書き込む間も喋りの応酬に頭を悩まされる。
喋るのが苦手という訳では無く正直そこまで苦痛では無かったが、毎日が変わらない日々というのはどうしてもマンネリ化してしまう。
漫画みたいに突然超能力とか使えるようにならないかなと妄想を膨らませながら、只々仕事を熟していた。
そんなある日の、終業後に行った飲み会の帰り道。
「しゅばばばーんっ! って必殺技とか使えたらおもろいのになぁ」
ウチは役場から徒歩十五分程のボロいアパートに住んでおり、街が田舎な事もあって街灯の少ない道を歩かなければいけない。
まぁ中学高校とバレーボール部で鍛えた身体はまだ健在なので、不審者が現れてもダッシュで逃げ切る自信はある。
それでもやっぱり一人で歩く夜道は怖いので、ピューピュー口笛を吹きながら歩いていく。
そして踏み出した足が。
「うぇっ!? 溝っ!?」
足が地面でなく空気を切って、身体の動きは警戒なステップから自由落下へと移り変わる。
まさかそんなに寄ってへんのに溝に足を踏み外すなんて、と思いながらウチは痛みを覚悟した。
全治何週間位の怪我になるやろかとまるで他人事のように考えながら、自分が深く、深く落ちていくのを感じる。
深く……深く……。
「……あれ? 深すぎへん? これウチ、もしかして」
溝じゃなくて崖?
いやでもこの道にそんな場所は……。
ともあれウチ、死んだかも……?
そう思って目を瞑った瞬間だった。
『グルゥアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
夜の冷たい空気が一瞬で暖かくなり、瞑った
痛みも無く不思議に思ったことと、突然目の前から大音量で響き渡った謎の叫び声にビックリして私は目を開いた。
「……な、なんやあれ?」
私は落ちていた筈なのに、いつの間にかテレビの旅番組で見たような広大な草原に足を着けて立っている。
いや、それどころでは無い。
先程聞いた叫び声の主であろう、見上げる位に大きい緑の鱗を
思わずちびりそうになりながら、私は腰を抜かし地面へと座り込んだ。
「はは、ははは。なんやウチ、夢でも見とるんかな……」
茫然自失と渇いた笑いを零し、理解もせぬまま瞳から涙が流れた。
さっきも思ったけど、やっぱウチ死んだわ。
これまでの日常では感じる機会すら無かった死が、ドラゴンが大きな口を開けて眼前に迫る。
人間の持つ防衛本能からか。
私は思わず、腕を前にして防御するような形を取った。
その瞬間。
『グワァオオオオオオオオオオ!?!?』
私の手の平から、極太のビームが出た。
「……はぇ?」
そのビームはドラゴンの喉を貫き、首を貫き、身体を貫き、背中になっても止まらず空へと飛んでいく。
度重なる理解の追いつかない現象に私は腕を出したまま硬直していた。
ドラゴンの身体は溶かしていっているのに、ウチは全然熱くないんやなぁとまた現実逃避のように考えて。
そうしていると私の意志に関係無く、そのビームは収束を迎えた。
地響きと共に地に伏せた命亡きドラゴンと共に。
「は、ははは。なんやウチ、強いなぁ」
命の危機が去ってもウチはまだボーっとしていて数分が経って。
少しだけ落ち着いてきて、思考が追いついてきて、ウチは思わず全力で。
「なんでやねんっ!?」
と世界にツッコミを入れたのだった。
主人公最強とか位置付けられたウチは、今日も今日とて敗北出来ないらしい。 恒石涼平 @ryodist
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