第10話

                結婚相談所

「結婚も悪くないかもしれない。」

 何となくそう思ったのだった。しかし結婚するには当然相手が必要だ。ではその相手はどこで見つかるのか。まあ長い目で見て探すことにするか。そんなことを考えていたある日、その店に立ち寄ったのだった。


「いらっしゃいませ。」

 そう言って出て来たのは店のオーナーらしいおばさん、いや、中年を少し超えたぐらいのレディーだった。

「当店ではお客様に満足していただけることを目指しております。ご要望がおありでしょうか。」

「いえ、っていうか結婚相手を探しに来たのですけど。」

「そういうことでしたら……。」

 と言って次から次へとカタログに載った写真を見せ始めた。

「今日は何となく来てみただけなんで。」

「お客様の好みはどのような感じでしょうか。」

「僕の知人は自己主張の少ない地味な感じがいいんじゃないかって言ってるんですけど。」

「それではいけません。お客様に合うようなのは地味な中にも個性が光るタイプがよろしいかと思います。それですと……。……。……。」

「今すぐどうこうって話ではないんで。」

「お客様ご自身はどういうタイプでしょうか。」

「こっちは生命力そのものって感じですね。」

「でしたら……。……。……。大柄な方がお好きでしょうか。」

「あまり気にしないですね。」

「そうすると……。……。……。」

「でもお金のこととかもあるんで。」

「お客様の収入はどれくらいでしょうか。それなら高嶺の花は紹介できないのは我慢してくださいね。お客様の収入の範囲内ですと……。……。……。」

「今日はただ見に来ただけなんで。」

 この時客が入って来た。良かった、やっと解放される!

「近いうちにまた来ようと思います。」

「お待ちしております。」


 この後僕は自分で選んだ相手を迎い入れたのだった。彼女は小柄で自己主張が強い訳でもなく、何より経済的に釣り合うと来てる!理想の結婚が悲劇に終わることもあれば、僕らのような無難な出会いこそがハッピー・エンドに終わることもあるんじゃないか。とにかく色々な夢を思い描いたのだった。

 しかし僕が彼女を迎い入れたその夜、彼女が僕に隠れて何やらカサカサ音を立てているのに気が付いた。無視してやり過ごそうとも考えたけれど、やはり気になって彼女を問い詰めた。すると出て来た。お前だったのか!『サクマ・ドロップ』の包み紙。彼女は無実を訴えた。しかし僕らの間には溝ができてしまった。



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