restar01-02
最近ではR国のエージェントというより、俺のために情報収集している時間の方が長いのではないかと思われる生活をミハイルは送るようになっている。
ミハイルの所属する組織が持つ情報網に、デイモスが起こしていそうな異変が引っかかっていないかを重点的にチェックしては定期的に報告してくれているんだ。
多くの国のエージェントがこの牧場で俺を監視しているけれど、ミハイルにだけは俺の半神としての事情を話した。俺の事情に巻き込んでしまった形だけど、アレクセイのこともあってか、苦笑しながらも協力してくれている。
ま、俺だってゼウスに巻き込まれた。
同じような立場の人間が他に居てもいいだろうさ。
本音では、ミハイルがどう思っているかは判らないけどな。
「ここのところ世界各地で起きている爆弾テロなんですが、これまでと異なり、少し様子がおかしいのです」
集めた情報をもとにミハイルが報告してくれている。
「自爆テロという手段は変わらないのですけれど、実行犯が一般人とは言えない方が増えています」
「具体的には?」
「国籍や地位はバラバラなのですが……公務員ばかりなのです」
「公務員?」
「はい。ですので犯行現場も公共施設がほとんどです」
公務員だからといって、特殊な思想に毒されないとは言えない。
しかし、俺が知っている公務員という人種は、世間知らず……かもしれないが、それでも特定の宗教や信条からは距離を置く方が多かった。
だから自身の命をかけるようなテロを示唆する、極端な危険思想に染まる方が多いとは思われない。
うん、確かにおかしい。
「そうだね。おかしいし不思議だと思うよ」
「そこで思い出したのが、デイモスに脳を喰われた人間のことです」
ああ、デイモスの指示しか聞かず、意思を失って人形のようになった者達のことか。
あれからいろいろ検査したけれど判らないまま、結局、数日後には全員静かに、一斉に死んでしまったと報告を聞いている。死後に解剖した際には、あるはずの脳の部分が空洞だったらしい。
「ミハイルは、デイモスの関与を疑っているんだな」
「その通りです。犯行声明も出さずに公共機関で自爆テロを起こすのは、テロリストの行動とは思えません」
「だが、そうだったとしても、デイモスの居場所が判らないのではどうしようも……」
犯行地域も散らばっているのでは、居場所を特定することもできないからな。
「いえ、C国に居るはずです」
俺の考えを読んでか、瞳を光らせてミハイルは断定した。
いつもながら鋭い男だ。
「理由は?」
「実行犯の国籍も地位もバラバラですが、一つだけ共通点があったのです」
「それは?」
「犯行前一週間以内に、仕事かプライベートでC国を訪問しているのです」
やれやれ、あれだけ痛い目をみたのにまたC国なのかよ。
「C国がまた関わっているのか?」
「いえ、今回は無関係だと思われます」
「どうしてだい?」
「C国高官の一人も実行犯になったからです」
なるほど。
C国が関与してテロを起こしているなら、民間人ならまだしも自国の公務員は実行犯に使わないようにするはずだな。
「つまり、デイモスはC国とは無縁のままC国国内で活動していると?」
「はい。そのほかにも……公になっていませんが、あの国では異変が生じています」
「他にもあるのかよ」
「未知の疫病が発生しているのです」
「未知?」
「ええ、発症すると二日以内に発狂死に至るらしいのです」
「そんな恐ろしい病なのに公にしていないのか?」
「発症して死亡したのが、政府要人の身内ばかりらしいのです」
「しかし、それなら尚更公にしないとマズいんじゃないのか? 感染の危険性とかさ?」
「感染する病なのかも判らない中、権力闘争で不利になる情報だから隠しているんですよ」
まったくこれだから権力の中に居る奴らは度し難い。
いつ発症して死ぬかも判らないのに、権力闘争での勝利を優先するとはね。
何より、一般庶民へ被害が拡大した際手遅れになったらどうするつもりだ?
「しかし……そんな情報をどうやって手に入れたんだ? 必死に隠しているんだろう?」
「発症して死亡した身内を持つ人の一人が、我が国の病院で検査入院したのです」
「そうか、報告ありがとう。こちらでも動いてみるよ」
ミハイルの読みと情報は、デイモスが何らかの形で関わっていると確信させた。
ニンフ達にC国国内を重点的に監視してもらおう。
あとテューポーンにも頼む。
俺の仕事部屋から出るミハイルを見送り、早速、クロノスとガイアへ依頼した。
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