counterattack02-09


 三十名ほど倒しただろうか。

 大使館の護衛人数が三十名超なのが、多いか少ないかは判らない。


 しかし、もうそろそろ俺には敵わないと判るだろうに、敵はまだ襲ってくる。

 銃で、短刀で、素手で、決死の表情で襲ってくる。

 けれど、うまく俺の身体に当てたところでダメージをちっとも与えられないのだから、どうにもできない相手だと判るだろう?

 こっちも相手するの面倒だから、いい加減逃げれば良いのに。


 まあ、それも職務上できないのだろうと思うと哀れだ。

 でも、情けをかけるつもりはない。

 雇われたところが悪かったと諦めていただきたい。

 本気は出していないから、せいぜい命を落とさないでくれよと祈る程度だ。


 そろそろ羽田梨奈を助けたころかなと考えながら、目の前に立つ護衛を殴り、蹴り、壁へ吹き飛ばしていく。

 うずくまって呻いている者達を無視して、敵意がある者達目指して歩みを進めた。


「駿介、羽田梨奈は助けたぞ!」


 ミニチュアダックスクロノスが俺目がけて駆けながら叫ぶ。

 おいおい、咥えた杖を落とさないでくれよ?


「そうか、時間稼ぎは終えていいな」

「ああ、思う存分やれ」

「それを渡してくれ」


 クロノスから、ゼウスに作って貰った杖を受け取り。


「じゃあ、外へ出よう!」


 クロノスに一声かけ、次に大声で叫ぶ。


「建物の下敷きや、焼死したくなければ逃げるんだな!!」


 来た道を戻るように玄関へ走る。


 玄関扉を蹴破って表に出ると、鉄柵の向こう側に警官が待機しているのが見えた。

 大使館内の誰かが通報はしたのだろう。


 ま、そちらにご迷惑かけることもあるかもしれないし、捜査なども徒労に終わるだろうが、適当に頑張ってくれ。


「さ、やるか!」


 握った杖に力を伝えるように、雷をイメージする。

 そして「ハッ!」と気合いを入れて建物に杖を向けた。

 気合い入れる必要はないんだが、その方がていいだろう?


 杖から太い光の線が建物に放たれ、ドーンという爆発音とともに正面側の壁が崩れ落ちていく。

 同時に、バチバチという音をたてて炎があがった。


「なあ? T国の時より威力増してるよな」

「駿介の力に応じて威力があがっただけだろう?」

「そうかぁ、アレスに虐められていたのも無駄ではなかったんだな」


 次に屋根を目がけて杖を向け、雷を落とす。

 ガシャーンと二階の窓ガラスが割れ、やはり炎がグワァと燃えさかった。

 中からヨロヨロと出てくる護衛達や、慌てて飛び出す館員の姿が視界に入る。


「雷以外にも使ってみたらどうだ」

「え? 他にも何か出るのか? これ」

「風だな。突風吹かすことはできるだろうな……ゼウスの力が込められてるなら……多分な」

「多分って……まあいいか……」


 炎が燃えている箇所へ突風が吹くようイメージし、俺は杖を向ける。

 グワァァァと強風が吹き、壊れた建具を舞上げた。

 炎の勢いが増し、音もゴゴゴゴと、腹に響くようなものに変わった。


「これ、使いどころ気をつけないと、無関係な周囲にも迷惑かけるだろうな」

「そこはお前が考えて使用すればいい」


 この無責任な去勢神め。

 でも、雷の他に風も出せるというのは覚えた。

 これはこれで利用機会はきっとあるだろう。

  

「さて、もう少し壊したら撤収するか」


 様々な物が燃え、もうもうとあがる黒い煙と、焼けた匂いがきつくなる中、俺は杖をふるって雷撃を建物へ落とし続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る