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「信用しちゃ駄目よ」
ミハイルを寮の一室に案内して戻ってきたベアトリーチェが、俺の前に座ってきつく言う。
「信用はしていないさ。だけど、向こうが動いてくれたのは正直助かってるんだ」
「悩まなくてもいいから?」
「まあそうだね。権力組織との付き合い方なんて俺には判らない。だから今のところは受け身で対応するしかないんだよ」
「でも、そうね、以前の私達じゃない。向こうが何かしてくるようなら仕返ししてやるだけよ」
「ベアトリーチェの気持ちは判るよ。でも、この世界で生きているうちは、できるだけ穏便に済ませたいところだな。俺達だけならまだしも、神田と平野も居るし、駒姫とおさなだって居る。この牧場を守ることは彼らの生活を守ることでもあるんだからね」
「……そうね、判ったわ。様子見しても油断はしない……それでいいわよね」
自分だけでなく家族も一緒に酷い目に遭わされたベアトリーチェは、権力者への不信感や警戒心がとても強い。
美しい顔に険のある表情を浮かべ、厳しい光を瞳に宿している。
そうだな。
ああ、判ってる。
ベアトリーチェの気持ちを安らかにするためにも、俺がもっとしっかりしなければならないんだ。
俺とベアトリーチェの会話を、ミニチュアダックスをブラッシングしながら静かに聞くネサレテの表情も物憂げだ。
「なあ、ネサレテ、ベアトリーチェ、もうしばらくだけ様子を見させてくれ。そして、向こうが俺達の生活を脅かすようなら、それには対処するからさ。クロノスやへラ、ヒュッポリテにエリュニスも協力してくれる。いざとなったらガイアやゼウスにも頼んで、平穏な日々を守るつもりだからさ」
ああ、これじゃいけないんだろうな。
神々の力を借りるとしても、俺が、俺自身がもっと前に出て、家族や仲間を守らなければならない。
その意思を表に出さなきゃいけない。
二人は、俺を気遣い心配してくれている。
そういう気持ちは有り難いけれど、そんな思いをさせないようにしなければならないんだよな。
「クロノス、この牧場のあたりはクロノスの力で覆われているって言っていたよな?」
ネサレテの膝上で毛をブラシで梳かれながら、黙って聞いていたクロノスに質問する。
「ああ、そうだ。我の力の影響で、神々の姿も人間の目に映るようになっておる。我のテリトリーの中では、神々でさえも我に隠れて好き勝手はできぬよ」
「クロノスのテリトリーに入ってきた人間の所持品チェックってできるか?」
「……我の力だけではできんな」
「そうか、無理か」
「だが、怪しい動きをする者を隔離し無力にすることはできるぞ」
「どういうことだ?」
「駿介よ。おまえが危惧しているのは、牧場内に居る人間の安全だろう?」
「その通りだ。俺とネサレテ、ベアトリーチェには、奴らでは何もできないだろう?」
「そうだ。ジョゼフとシャルルにはへラが目を光らせていることだしな」
「それでどういう方策をとれるんだ?」
「要は、何者かが何かをしでかしたとする。それが判った時点で、時を遡り、その何者かが事を起こす前まで戻り、牧場内で隔離すればよいのだ。さすれば事件は起きないことになる」
なるほどな。
事が起きたら犯人は特定できる。
少なくとも被害に遭う者が特定できる。
被害に遭う者が特定できるなら、その者の時間を遡って事件前まで戻れば良い。
「なあ?」
「ん? 何か問題があるのか?」
「そんだけ凄い力があるのに、どうしてゼウスに負けたんだ?」
「だから言ったであろう? 神に関することはだな、未来を視ることはできない。そして、過去であろうと変えられない。神々同士の戦いは、結局の所、素手での殴り合いとさほど変わらないのだ」
「なるほどなぁ。だから、T国のことも、デイモスだけでなくギガースが関わっていたから過去に遡って奴らの行動を未然に防ぐことはできなかったのか」
「負の精神体というエネルギー体であるデイモスもある意味神と同じだからな」
今回の相手は国家や権力組織。
相手は人間だ。
クロノスの力を十分に発揮できると考えてよさそうだ。
「クロノスは俺達の守護神だな」
「ええ、クロノス様がいらっしゃります」
「そうね。クロノス様がいれば恐れることはないわ」
俺、ネサレテ、ベアトリーチェがクロノスを持ち上げる。
それを聞いて気分が良くなったのか、クロノスは調子のいいことを言う。
「そうだぞ。我に任せておけ。心配することなど何もないのだ」
ちょっとお調子者の
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