第二部 半神 成長編
世界との接触
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T国の世界への宣戦布告、そしてK国との戦争と数日後の終結。
十日間程度の間に、事件はめまぐるしく動いた。
T国には国連の査察団が入り、暫定的にその管理下に置かれる。
「戦争を起こしたと目される首謀者達は一人も見当たりません。参加したテロ組織のTOP三名の姿も無く、事件の全貌は不明のままです……」
こういったニュースが連日TVで流れるけれど、俺達にはもう関係ないことと考えていた。
事実関係を話したところで信用されるわけもなく、それどころか精神異常を疑われるだけだろう。
そんな目に遭うのは御免被りたい。
捕えられなかったデイモスの件は、ゼウス達から情報が来るまで俺にはどうにもできない。
できることならどこかで静かに隠れたままでいてくれると助かる。
駒姫とおさながベアトリーチェと共に、過去へ戻っては秀次の子供や側室を連れ帰ろうと計画している。
そっちは任せて、俺はペット牧場の拡大に向けてスポンサー探しに動こうとしていた。
今この時も殺処分に遭うペットはいるのだ。
そのことを思うと辛くなる。
神田と平野に人材募集も改めてお願いする。
さて、次はどこの土地を購入しようかと考えていたところ、ネサレテのところに遊びに来ていたへラが提案してきた。
「駿介よ。この牧場の他に必要なら、天上界の我の領地を使っても構わぬのだぞ」
「え? でも食料や医療のこともあるし……」
「うむ、それらはこちらで何とでもなる。それにな、負の感情はペット達からも生じる。おまえのやっていることは新たなダイモスの誕生を邪魔することに繋がっている。つまり、協力の必要もあるかもしれぬと我は考えているのだ」
なるほど、デイモス対策の一環としてってことか。
珍しくラフな白シャツと黒のパンツスタイルで座り、ネサレテの淹れた紅茶の香りを楽しむへラが頼もしい。
神の力は借りずに人間の手で……と考えてきた。
だが、そのせいで殺処分に遭うペットを減らせないのであれば、それも問題だ。
ここのところ、こう考えることも増えていたのは事実で、へラの申し出は俺の気持ちを揺らがせた。
「だが、日本だけでも年間五万頭にも及ぶ数です。場所も相当必要だし、餌だって……」
「ニンフどもが暇しているのでな。面倒見る者はおるし、食料の調達も心配はないぞ」
へラはハッタリを言うタイプではない。
それどころかテキトーなことを嫌う。
心配はないというのであれば、その通りなんだろう。
「そりゃありがたいのですが、いいのでしょうか?」
「人間が神と接することができなくなって久しい。ニンフどもも人間と交われなくなっておる。交わるたびに天上界へ連れ去ることは
そうか、ニンフは人間の男を
姿を見られることもなくなり、接触の機会が減った。その上、ゼウスからの許可が下りず、天上界へ連れて行くこともできない状態だという。
ならば確かに暇を持て余していても不思議じゃない。
「先ほども話しましたが、毎年五万頭ですよ? 大丈夫なのですか?」
「ニンフというのは精霊だ。自然があるところには必ず居る。ある程度の樹齢の木であれば、その一本一本に木精は存在するのだ。海や湖、山に谷、そこら中にニンフはいる。数だけで言えば恐ろしい数が存在する。五万が五千万でも心配は要らぬ」
ふむ、五千万匹でも構わないというのは凄い。
可能なら有り難いことこの上ない。
俺の想像を大きく超えている。
というか、そんなに連れてこれるか?
こちらの能力が追いつきそうにない。
それに、事情を知らない人達から怪しまれるのでは?
数万匹のペットを引き取ったとしても、ここにはせいぜい数百匹程度の受けいれ環境しかない。
引き取ったペットはどうする? と考えるのは自然だ。
「そんなペットは居ないことにしてしまえばいい」
俺が何に悩んでいるのか察したクロノスが、足下から意見する。
「保健所の記録と関係者の記憶をイジってくれば良いのだろう? この国のシステムを理解した我には造作も無いぞ」
「なるほど……殺処分にしたという幻影も見せて、記録も変えておくということか?」
「そうだ。史実を変えないよう、おまえの趣味で使用している手段を用いれば良いだけだ」
それならいける。
当面はクロノスの力を借りて、ペット達の命を助ける。
そして時間をかけて、本当の受け入れ環境を整備すればいいのか。
「いつもすまないな」
「何、気にするな。ゼウスなら、我だけでなく、多くの神々にそのうち手伝わせるだろうよ」
「それはどうしてだ?」
「デイモスが関係することだからだ。それに……」
「それに?」
「女遊びできなくなって暇だからだ!」
おいおい、いい話の流れをぶった切りやがった。
しかし、へラがニコニコしてるところを見ると、クロノスの読みはそう外れていないようだ。
だがこの時だけは、ゼウスを去勢に追い込んだテューポーンに感謝したのは言うまでも無い。
大きな荷物が背から降りたように感じた。
だが、いずれは、神の力を借りずにペット達の命を守れるようにならねばな。
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