interlude01-02 おさな

 毎日、大変よ……。


 仕事も勉強もほんと大変。

 何で私が犬や猫の面倒を見なければならないかしらって何度も思ったわよ。

 糞の掃除?

 躾け?

 そのうえ、来場者の整理? 


 犬や猫は、ええ、可愛いわ。

 でも毎日、どうしてこうも見物客が来るのかしら。


 駒姫ちゃん見たいだけの人も居るわね。

 「ごまひめぢゃぁ~ん」って叫び声も何なのよ。

 ……恥ずかしくないのかしら。

 

 この世界で生きるために必要なことを勉強もしなくちゃならないから、毎日ヘトヘトよ。

 駒姫ちゃんは、私よりずっと先から一人で続けていたんですものね。

 駒姫ちゃんと励まし合っているから私は頑張れる。

 ほんと頭が下がるわ。


 でもね?

 父は美濃衆、武藤長門守。

 武藤家は武田信玄の母、大井氏の一族になる名門の家系なのよ。

 名門よ?

 私は名門の娘なの!


 でも、最上家の駒姫ちゃんは文句も言わずに頑張っている。

 だから私もやらなきゃならないと頑張ってるわよ。

 もう家もないのだから、名門の娘も何もないのも判ってるわよ。


 でも、ちょっとだけ不平言わせてね?

 そしたらまた頑張るから。


 ただね?

 ここでの食事は美味しい。

 もう、この食事を毎日食べられるというだけで、こちらの世界へ来た甲斐があるというものよ。


 あの時代で食べたことのない美味しいものがたくさんある。

 お菓子なんて、それはもう……。

 思い出すだけでもくらっとするわね。

 あの時代の人達にも食べさせてあげたい。

 ……そうよ。

 今度駒姫ちゃんが行くときには、食べ物を持っていって食べさせてあげたらいいわ。

 それだけでこちらに来る気持ちに変わるかは判らない。

 でも、辛いひとときを慰めてあげられるかもしれないものね。 


 この世界の衣装にはまだ慣れないけれど、これはこれで着替えも一人で出来るから気軽でいいわ。


 それにしても駒姫ちゃんは、玖珂様のことどう思っているのかしら?


 私達の感覚だと、正室や側室が幾人居ようと側室に入るのは構わない。

 玖珂様にはネサレテ様とベアトリーチェ様がいらっしゃるけれど、その気があるなら駒姫ちゃんも私も側室の一人になるのは構わない。

 だって助けてくれた上に、ここで生活するために必要なことを全て与えてくださってるんですもの。


 玖珂様には今のところその気がないようだから、私も駒姫ちゃんも自由にしていられる。


 でも、時々不安になる。

 自由って素敵だけれど怖いと思う時もあるわ。


 頼って良いと言われても、私達の立場がどういうものなのかまだ理解できないでいるから頼りづらいのよ。

 側室なら側室に許された範囲がはっきりしていて、その範囲で頼れる。

 でも今の私達は何なのかしら?

 この牧場の雇用人?

 それにしては、いろんなものを与えられている。

 食事も住居も衣服だってそうなのよ。

 

 神田さんや平野さんが私達の上役うわやくだけれど、私達ほどいろんなものを与えられているようには見えないのよね。私達には判らないだけなのかしら?


 今の立場や環境が嫌というわけじゃない。

 でも、たまに不安になるのも確かなの。


 ……今度、駒姫ちゃんと話してみようかしら?





―― 第一部 完

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