デイモス討伐

deimos01-01


 ……時は数ヶ月前に遡る。


 ギガースの身体……粘体に取り憑いたデイモスは、神々の目から隠れながら自らを馴染ませていった。

 人間の身体であれば、即日のうちに馴染み思い通りに活動できる。

 しかし、ギガースの身体であった粘体に馴染むにはしばらく時間が必要だった。

 巨人族のギガースだった粘体は、神々と異なり実態を持つとはいえ、まだ体内器官も未熟な状態であったから、器官を整備するところからデイモスは始める必要もある。


 本来は、神の一族でもあるギガースに取り憑くことは困難だ。

 だが、意識がなかったことが幸いし、デイモスは人間よりも強靱な肉体となる素を手に入れることができた。

 じっくりと時間をかけて、自らの思い通りの活動ができる身体に成長させていく。


 やがて粘体は四体に分かれ、それぞれが人の形に変わっていく。

 肌は不透明になり、髪こそ生えてはいないが頭部が形作られ、胴体と手足が徐々にできあがっていった。

 もちろん彼らは、人間の姿をしていても人間ではない。

 元が粘体だから姿形を変えられる。

 

 ギガースの肉体的な力も持ち、神の力を吸うこともできる。

 だが、負の感情が弱いところでは、彼らの力は弱まる。


 そうした新たな肉体の特徴を、彼らは一つ一つ学んでいた。


『この身体から漏れ出る力と波動を抑えながらだと時間がかかる』

『ああ、だが、動き出す前に滅ぼされては困るからな』

『うむ、我らの恨みを解き放つまではな』

『もうじきのことだ。焦るな』


 やがて、四体は活動を始める。

 街へ出て現代世界の知識を集め、可能な破壊活動への近道を探しだした。

 そして、大規模な国家間戦争は生じていないことや、テロによる不安が各地で生じていること、そして現代の安定は脆い関係の上に成り立っていることなどを彼らは学んだ。


 ……テロリストと独裁色の強いT国の存在に目をつけ、そしてその有効な活用法を思いつく。


 彼らはお互いに役割を決め動き出した。


・・・・・

・・・


 民族解放人民戦線。

 このテロ組織は、異なる団長を持つ三グループで構成されている。

 ターゲット以外に極力被害を及ぼさない姿勢のアフダル。

 広範囲に被害が生じる過激な行動も辞さないアバス。

 目的次第で行動が変わるファハド。


 この三名は組織内で、自分こそが最も注目されている活動家だと自負しており、お互いに反目し合っていた。

 三つのグループは規模もほぼ変わらず、力関係も拮抗している。

 組織の事情を知る者からは、三名がまとまって行動を起こすことなどありえないと言われていた。


 ところがある日、T国の独裁者イーブンと手を組み大々的な破壊活動を行うと、三名の連名で通達が出た。

 表向きは仲間であってもお互いに敵視することさえあった三者の変わりように、組織内には驚きで喧噪が広がる。これまでとは無縁の間柄だったことを思えば、構成員達が騒ぐのも無理はなかった。 

 

 しかし、活動の具体的な内容を知ると、三者が手を組まなければならない事情を理解する。


 『世界との戦争』


 国家権力との直接戦闘を避けるゲリラ的な活動ではなく、対等の敵として正面から破壊活動を行う。

 その状況が引き起こす混乱の大きさに世界が対応に困っている間に、ゲリラ的テロ行為も同じに行い、世界の注目を民族解放人民戦線に集める。


 『虐げられている少数民族の怒りを思い知らせ、その権利を世界に認めさせる』


 少数民族出身のイーブンの顔を立てると同時に、様々な民族からなる構成員が正義に燃えやすい名目が掲げられた。


 この計画が発表されて数日は、大きな仕事だと高揚していた構成員だが、武器の調達や各地の情報収集しているうちに、別の話で盛り上がるようになっていた。


「しかしよ? うちの団長もそうだが、おまえの所の団長も、揃いも揃ってよく協力する気になったな」

「ああ、団長達は死んでも手を握るようなことはねぇと俺も思っていたんだ」

「それによ? なんか性格も変わった気がしねぇか?」

「元から静かだったアフダル団長はともかく、いつも酔っ払っていて、女と見りゃ尻を追いかけるアバス団長まで、ここのところ静かになった。まるで別人だぜ」

「おい、おまえ等、これだけのでかい計画だ。協力すんのも慎重になるのも当たり前じゃねぇか」


 以前は顔を見るのも嫌がって同じ部屋に居ることもなく、ましてや食事を共にとったり、一緒にどこかへ行くなどということはなかった三名。

 それが笑顔こそ見せないが、傍目からは信用しあう仲間に見えるようになった。


 構成員達はこのことをいぶかしがったが、目の前に迫った大仕事のせいだと考えている。

 彼らは、自分達の団長が元と異なってると感じていたが、計画が今までと規模も種類も違うから、そういうこともあるかもと納得させていた。


 しかし、彼らの団長がデイモスがそっくりの姿に擬態した姿で、元の三名はデイモスに食われて既にこの世には居ない。

 食った者の記憶をデイモスは手に入れる。

 テロ組織を自在に動かすに都合の良い容姿と立場をデイモスは手に入れた。

 そして、T国独裁者イーブンもまたデイモスに食われた者であった。

 

 ……そのことに気付く者はこの組織には居なかった。

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