riot01-04
アレスとの訓練を終えて牧場に戻り、ペット達と遊ぶ駒姫達を眺めている。
子供達が小さな動物達と愛おしそうにじゃれている様子に癒やされている。
少し汗ばむ暑さも、流れる風の心地よさを感じさせてくれるから不快じゃない。
嗅ぎ慣れたペット達の匂いが混じった空気は、ここが俺の家なのだと思わせてくれる。
姫だろうと側室だろうと、王太子や王であったとしても、遊んでいる様子は子供だ。現代の子供達より、権力の怖さもいやらしさも知っている。だけど、やはり子供に過ぎないんだ。
駒姫とおさなは、草むらにしゃがんでペット達の様子に微笑み、ジョゼフとシャルルは随分元気になり、明るく笑いながら駆け回っている。
――この光景を守りたい。もっと大勢が楽しんで、悲しみを忘れられるようにしたいな。
放牧場の柵に寄りかかり、時折、俺に手を振る子供達に笑顔を返す。
「駿介。事件が起きたぞ!?」
「事件?」
背後からクロノスの慌てた声が聞こえ振り返る。
クロノスの落ち着かない声を聞くなど初めてだ。
「ああ、テロリスト集団が世界に宣戦布告した」
「はあ? なんだそれ本当か?」
「ああ、TVではどのチャンネルでもその話題でもちきりだ」
世界への宣戦布告?
何それ、理解できない。
少なくとも、関係が悪化している国同士で戦いが始まったというのならまあ判る。
しかし世界へとなると、そんなことしそうな国は知らない。
そこまで切迫している国の情報など持ちあわせていない。
こんなこと、クロノスよりも俺の方が動揺してしまうだろう。
「それと核保有しているT国が、テロリスト達を受け入れると同時に宣言したものだから大騒ぎだ」
「ちょっとそれはマズイじゃないか」
何がまずいって、T国は独裁国家だ。
独裁者がテロリストを受け入れると宣言したのだ。
民主的コントロールなど効かないのは当然だし、テロリストへの抑止などT国に期待できない。
「そのようだな。神や、おまえのような半神は特に影響受けないが、人間には放射能の影響あるのだろう?」
「あるさ。生き物全般にな。いくら何でも核を安易には使用しないだろうが……」
「デイモスが絡んでいるとしたら、簡単に使うかもしれんぞ? あいつらは自分達を生み出した生き物を憎んでいるからな」
そうか。だとしたら尚更マズイ状況だということ。
対抗手段を持つ国が、T国への専制攻撃を行い、核の無力化でもしない限り、甚大な被害をどこかで生じてもおかしくない。
先制攻撃するということは、T国国民への被害が生じるということ。
独裁国では、情報を適切に国民に伝えられることはないと言って良い。
民主国でさえ、情報が適切に渡されているとは言えないのだから、国民の不満を権力側に向けたくない独裁国では当然だろう。
また、理不尽な悲劇が生まれるかもしれない。
「何か良い手段はないのか?」
「神は基本的に人間社会へは不介入だ」
「それは知っているが……」
「おまえが動けば良かろう」
「俺が?」
とんでもないことをクロノスが言い出す。
半神になったからといって、所詮は凡人の俺に何かできるというのだ。
「ああ、そうだ。半神であるおまえなら、人間の武器などで傷つくことはないからな。ただ……」
「ただ?」
「デイモスがギガースの肉体を利用してるとしたら、おまえでも傷つくこともある。へラの母乳を飲んだから死にはしないがな」
いや、死なないからいいというものではないだろう。
腕や足を失うようなことになったらどうするんだ。
「なあ? 過去に戻って、ギガースの身体をどうにかできないのか?」
「無理だな。神に関わることは、未来も過去もどうにもならん。ギガースも一応神族だからな」
「じゃあ、デイモスの浄化は?」
「肉体を持てば所在も判るかもしれないが、そうでないならどこに存在するかなど判らん。判るものなら、あのゼウスが放置しておくものかよ」
まあ、確かにな。
潜在的敵の可能性あるギガースを滅ぼすつもりだったのだし、明確な敵のデイモスを放置しておくようなゼウスではない。
ここまでの話を聞いて、以前から疑問に感じていたことを訊こうとふと思った。
「なあ? ギガースは神では倒せないというのはどういうことだ?」
「神というのは、精神エネルギー体だ。だから近親で結婚し子を産んでも、人間で生じるような血が近いことで起きる弊害は起きない」
「遺伝子のようなものはないということか」
「そうだ。そしてギガースはエネルギー体からエネルギーを吸い取り防御力に転換する。つまり神からの攻撃を受けている間に限っては、強靱な存在に変わる」
「なるほど、だが、その理屈で言えば、半神からもエネルギーを吸い取るのではないのか?」
「そうじゃない。半神はあくまでも人間としての物体的な存在だ。神のエネルギーは体外に放出されない。肉体でエネルギーをコーティングしていると考えると近いな。神としてのエネルギーがあるから、人間の武器では傷つかないし、肉体にも超人的な力を持つのだ」
よく判らないが、実態としての肉体を持つか持たないかが、ギガースを倒すためには重要だということらしい。
「じゃあ、俺とネサレテやベアトリーチェとの間に生まれる子供は、半神なのか? それとも人間なのか?」
「半神同士の夫婦は過去に存在しなかったから、確実とは言わないが、多分、人間として生まれるだろうな」
「どうしてそう思うんだ?」
「子を為す過程が、神と人間では行為こそ同じだが、子を形成する実態は別物だからだ。神同士の子供は、両親が別であっても……理屈上は同じ子が生まれてもおかしくないんだ」
「は? さっぱり判らない」
「神はエネルギー体だ。性格と能力……エネルギーの強度と構成こそ個々に違うが、同じエネルギーでできている。神における子供とは、両親のエネルギーを分け与えて形成される存在」
「つまり……二種類の色水から、透明な水だけを取り出して合わせ、新たにできた水が子供で、色も新たに着く……そんな感じか?」
「まあ、そのようなものと理解していればいい。正確なことなどより、人間と神との違いが判れば良い」
雰囲気は判ったけれど、具体的にはさっぱり判らない。
だが、人間の子作りとは別物ということは判った。
神の個性とは、エネルギーの構成や強度や密度によって生まれるというのも何となく判った。
「で、どうしたらいいと思う?」
「だからおまえがやるしかなかろう。まだはっきりしないが、デイモスがギガースの身体を利用しているとしたら、おまえしか対処できないし、ゼウスとも協力を約束したのだから、逃げられないぞ。我も協力するから観念しろ」
そうか……やはり逃げられないのか……。
嫌々ながらも、動くしかないなと俺は半ば諦めた。
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