クローバー・ナイト

カゲトモ

1ページ

「ふふふふふ」

 本日何度目かのその声にこっちまで笑みが零れてくる。

「なにか良いことでもあったのですか」

「え?」

「なんだかとても楽しそうでしたから」

「うふふ、分かっちゃいます?」

 マリさんは口元に手をやりながらふんわりと笑う。

「実は私がデザインしたお洋服が発売されることになったんですよ、ふふ」

「わぁ、そうなんですか! おめでとうございます」

「うふ、ありがとうございます」

 マリさんはアパレルショップで働く定員さんで。いつもふわふわとした可愛らしく、ナチュラルな洋服を身に纏っている。森ガールファッションと言うらしい。実はつい最近まで山ガールファッションだと思っていた・・・おっさんには女性のファッションはよう分からんよ。

 とりあえず可愛いのは分かる。

「マリさん、デザインもされるんですね」

「はい。もともとデザイナー志望でもあったんですけれど、いろいろあってその道は諦めていたんです」

「そうだったのですね」

「はい。それでもどうしてもお洋服に関わる仕事がしたくて、今のお店に入れてもらったんです」

 首を傾けた拍子にカールした長い髪がふんわりと揺れる。眉尻は下がり、頬は艶やかに紅潮している。全身から幸せが溢れ出ているようだ。隠しても隠せてないというか。まぁ隠してはいないのだろうけれど。

「実は今のお店に入れてもらえたのも運命みたいなもので」

「おや、そうなんですか?」

「はい。実はどうしてもアパレルで働きたいと思って、高校卒業してすぐにこっちに来たんですよね。就職先も決まってないのに」

「えぇ!? 凄い行動力ですね」

「若気の至りですよ。都会に行ったら服屋さんがいっぱいあるから、きっとどこかで働けるって思って。ふふ、本当バカですよね」

 そう思っていても行動に移せない人なんて山ほどいるのに、素直に凄いと思う。

「そこで今のお店に出会えたんですよね」

 グラスを両手で持って、中の氷を遊ぶように揺らした。いや、その日の事を思い出しているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る