第77話 征服
ダッシュガヤは顔の傷を隠す為に仮面を被り、鎧とマントで身を包み、西部の地域を歩いていた。最初は誰も相手にする者はいなかったが、彼女から金品を奪おうとする者が現れた。
「お前達、我を知らず、襲うだと。笑わせるな。その抜けた顔がお前達の馬鹿さ加減を物語っている」
盗賊達はその恐れを知らぬ態度に気圧されながらも、相手は一人、それも女とたかをくくって剣を抜き放ち、切り掛かった。だが、盗賊などが勝てる相手では無い。地面に転がされて、剣を奪われ金品を取られたのは盗賊の方であった。だが、いつもなら殺していたのだが、この西部に来てから殺しはしなくなった。
「てめえ、何しやがる。この野郎」
「どうした。殺すのではなかったか。このボケ助」
金目の物を手に入れ堂々と去って行く。とうとう盗賊仲間で有名になり、仮面野郎と盗賊仲間の賞金首になった。
「おい。いくらになったんだい」
「何のことだ」
「お前達の間で俺の賞金が決まったと聞いたが」
「ふん。あれか。5000ビーゴだ」
「たった5,000とは悲しいことだ」
「何ぬかしてやがる。必ずお前は俺たちがやっつけてやる」
「まあいい。ワハハハハ」
そう言ってどこかに行ってしまう。そんなことが続いており、西の各部族はどんな奴なのか噂になり、道を歩くと多くの者達に歓迎してもらえる事になった。
ある村の広場で座って寛いでいると、一人大男に五人がケンカを売ると言う場面に出くわした。見ているとこの大男が偉く力持ちで五人を圧倒していた。だが、内一人が抜け出し、どこかに助っ人を呼びに行ったとみえて、四人は余裕をかましていた。しばらく見ていると十五人が現れ、19人対一人になった。
「てめえ。これでもやれるかい」
親分のような男はデカイ態度で大きく出た。
一斉に飛びかかった所、12人ばかりは吹っ飛ばされたが、7人に体を抑えられ、みんなに殴られていた。
「くそー。この卑怯者」
そう言って体を動かそうとするが捕まえられており、逃げられない。剣を抜いて殺そうと近ずいて来る男に抗いながら体を外らせる。剣を振り下ろそうとした。大男は目をつむる。だが、何も起こらない。周りを見渡す、19人の男達は動けず、固まっている。
「好きにするが良い」
広場で座っている仮面の男は言った。
体の自由を得た男は大きな木槌を持つと男達を叩き始めた。全ての男を倒し終えて、お礼をいいに仮面男の前にやって来た。
「ありがとうございます。あなたのおかげでやっつける事が出来ました」
「それは良かった」
そう言って立ち去ろうとすると仮面男に大男はついて来た。いくらついてくるなと言っても離れず、どうも困ってしまったようであった。それで大男について来たら困る旨を言うと、どうしても家来にして欲しいと懇願されてしまった。
さて不思議なものでそうなると一人一人と増えてゆき、西部に入った時は一人だったものが、五百人の集団にまで成長していた。この五百人が西部を西へ東へと動きながら大きく版図を広げていたが、西部地区のその殆どを飲み込むまでにはまだまだであった。西部地区は豪族が相争う抗争の世界観が抜け切れておらず、ダッシュガヤが到来して三ヶ月が経っても中々征服できずにいた。
さてこの新興の勢力が押し出して来た事を受けて、旧勢力の二大グループが合流してこれを抑えようと画策して来た。
いくら兵を集めても千しか用意できぬ状況に仲間は震え上がっていた。相手側は見渡す限りの兵が並んでおり、十五万ぐらいはいるだろうと踏んでいた。
「どうだ降伏するか」
自陣に降伏の勧告をしに現れた敵将カシュを前に、仮面男は笑っていた。
「いやいや。これだけいたら焼くのも大変だ。負けを認め我を支配者とするのならその命永らえること許そう」
「何ボケたこというてんじゃ。お前達勝てるのか」
そう言ってダッシュガヤの前でデカイ態度で講釈を垂れていた。しかし、晴れていたと思っていたが、大きな影が自分たちを覆う。気がつき上をみると、黒い大きな物が飛んで来て自分たちの方に降りて来る。それは紛れもない黒いドラゴンであった。
「さあ、これで我の戦力は整いました。始めましょう」
この後西部地区はダッシュガヤの支配を受ける事になった。その為、復讐のために集められた兵士は二十万人にも及び、この地域最大の軍団が現れた。その目的地は巫女の国、中つ国である。西部から見てすぐ隣であり、多くの人の心の支えとなっている国であり、この攻撃に誰が抗うか確かめようとダッシュガヤは考えていた。
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