第60話 女王ソレア
クルドとアキオはバクラを葬り去った。バクラの言葉を噛み締めながらの苦い勝利であった。アキオはバクラがどおして化け物として湖に封印されていたのか、何故地震の後狂ったのか、この二つを解明しなければ成らないと考えていた。クルドは八聖龍の居場所がまだわからないので、次はアキオの両親を探す旅になるのだろうと覚悟していた。二人は気落ちしている様に見えた。
「これでソレアも目的ができた。別れは仕方ないことだ。それにミランダもソレアを手伝ってやりたいだろうし、二人でこれからオババの言っていた、この辺りで一番高い山に行こうか。この用件を先に片付けようと思うが良いかい」
「それは良いんだが、アキオ、君の両親を探す事はどうするんだい」
「その時はその時さ。君との約束だ。八聖龍との対面を先に達成するよ」
これを聞いてクルドは何も言えなくなっていた。
クルドとアキオは互いにここまでこれた事に感謝をしており、互いがいなければこうはならなかったと認めていた。この二人の前にソレアが姿を現した。高台の上に現れたソレアが周りを見渡した時、石垣の周りに集まっていた民衆は大歓声をあげた。
「ソレア女王様、万歳。アの国に栄あれ」
民衆は大合唱をあげた。
「何を言うのか。怪物バクラを倒されたのはアキオ様だ。私では無い」
ソレアの言葉をアキオは遮り、諭す様に言った。
「彼らが欲する物を与えてやらねばならないと、思はないか」
「ですが」
「ですがなんて関係ないんだ。王が欲しいのだ。彼らの愛する王が。いいや、ソレア女王が必要なんだ。なってやれ。君しかいない。この国を支配できるのは」
そう言っていると美しいローブを持った幾人かの侍女が現れ、それに付き従い神主の様な者と巫女が三人やって来た。彼らはソレアの前で恭しく膝まつき儀式が始まった。
神主が言葉を上げ、巫女が三度拝み、剣とボールほどの石、盾をソレアに捧げた。そのソレアの後ろから侍女たちがローブをかけ、儀式は終了した様であった。
多くの民衆の声が高まる中、ソレアから少しずつ下がり、逃げようとしていた。多くの者は誰も自分の事など気にも留めないと考えていた。
「しめしめ、これで女二人をここに捨てて行く事が出来る。これで楽に旅ができようというもの。それに俺はドラゴンの村で死ぬ身だし、連れて行ったら二人も危ないものなあ。さあ、逃げよう」
くるりっと踵を返しておさらばしようとした時、俺の右手を掴む奴がいる。
「何処へ行くのです。あなたの妻が女王になったと言うのに。行かせませんよ」
掴んだ奴の顔を見るとガテヤであった。
「あっ。あんたは確か、ソレアの・・・・」
「そう。親父ですよ。婿殿。これはソレアの母、ソニアです。お見知り置きを」
そうしていると左腕を掴む者が現れた。顔を見るとミランダであった。
「あんた誰。離してくれる」
「ダメよ。私は第一夫人なんだからね」
二人に両の手を掴まれ、逃げ出せなくなり、気落ちしてると、ソレアがガテヤを押しのけ、俺の手を掴んだ。多くの民衆の前に俺が真ん中で左右にミランダとソレアが立ち、歓声を受ける羽目になった。
「あなたは俺をどうして行かせてくれなかったのか」
「アキオ殿。ソレアは娘と言っても今や女王。女王が怒れば家来の首など飛んでしまう。例え親と言えども例外ではありません」
ガテヤはフッと笑い、妻ソニアをアキオの前に進ませた。
「あなたとソレアは違いますね」
「そうです。あのこは夫が遅くして出来た子供故、一人で生きてゆく覚悟を与えたのです。つまり、戦士の生き方です」
「女の戦士は珍しいのですか」
「いいえ、アイラ族の女は戦士として育てられる者も少なくありません。ただ、ソレアは他の女と違い格段に強くなってしまったのです。誰も敵う相手がいなくなり、婿探しが難航して。今回騙され捕まり、どうなるかと心配いたしておりました所、あなた様に助けて頂いて感謝しております」
「そうですか」
俺はあまり嬉しそうで無かったらしく、ソニアは悲しい顔をした。それを見てガテヤはソニアに笑って言った。
「お前の娘は幸せ者だ。相手は嫌だろうが本人は愛してる。アキオ殿は不幸だが、ソレアは幸せなんだ。その方が円満と言うもの」
俺は言葉を失い、座り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます