第61話 ヒッテドリ山
ソレアにこの辺りで一番高い山は何処かと尋ねるとヒッテドリ山と答えた。
「あの山は夏でも雪が積もり、生きて帰る者なしと言われております」
それでヒッテドリ山の事を知るものを呼び出してもらう事にした。アの国の学者やヒッテドリ山周辺の旅行者などに聞き取り調査を行い、情報を集めてもらった。それでわかった事は、場所、地形、地域住民、伝説、特産品などの情報であった。
「これでは本当に欲しい情報がないなあ」
「アキオ様。どう言う事でしょうか。我々の手落ちでございましょうか」
そう答える役人は下を向き震えていた。
「いや。そうじゃない。君も読んだだろう。この書類を。矛盾してるんだよ。そして、伝説も三回くらい変わっている。どうしてだ。行けばわかる事だが」
アキオが役人達に色々聞いているとソレアがやって来た。役人達は皆震え上がり、誰一人として顔をあげない。ソレアは怒った。
「お前達、何をぐずぐずしている。このお方の役に立たんなら死んで詫びよ。此の期に及んで役立たんとは」
ソレアは役人の一人を怒りのこもった眼差しで見た。相手はただただ恐縮するだけで下を向いて固まってしまった。
「何とか言え」
ソレアはその男の上着の首筋を掴み、グッと持ち上げた。
「止めてやれ。そんなに怒る事ではない。多分今まではこれで良かったんだろう。だが、考え方を改めないと次に進めない。誰か居ないかなあ、面白い奴」
ソレアは考えていたが、一人思いついたらしくクンタと言った。
「あ奴なら、どうだろうか」
どう面白いか分からなかったが呼んで来てもらった。クンタはソレアの親戚筋に当たるのだが、痩せ型で戦士とは見えない男だった。決闘となれば昔の俺でも勝てるように見えた。だが、ここは強さが物を言うアイラ族の世界なのだ。年齢を重ねて今日まで生き残っている事はクンタの能力の高さ故とも言えた。それでクンタを呼び出し、ヒッテドリ山の調査を頼んでみた。
クンタの事務処理能力は高かった。こちらの目的に対する情報の選択。装備や食糧などの用意、伝承や伝説と事実との分離、伝説の変遷と大まかな理由の羅列。多く納得させられる情報の整理と報告に満足し、地図を手渡され出発を決めた時、ソレアが一緒に行くと言い出した。
「旦那様。あなたと別れたら二度と出会う事は無理でしょう。だから、一緒に行くことを決めている。女王などどうでもいい事だ」
ミランダもソレアと同意見で二人とも旅支度をしている。ガテヤとソニアも二人に同意しており、アの国のことなど眼中にないようだった。そこにクンタがやって来てソレアに言った。
「あなたは国民を裏切るのですか。例え本意ではなくとも女王になったからには責任が生じる。旅に出るのはお止めください」
「おっ。いいこと言うやないか、クンタ。頑張れ。それ、もっと言え」
俺はクンタに声援を送っていた。心の中で。そんな俺の心を知ってか知らずか 俺の顔を見て言う。
「アキオ様もそう思っているはずです。お止めください」
これにソレアの怒りが爆発した。
「おのれ!知らぬ中ではなく、許されて何でも言えると思うてか。よ〜し、わかった。お前の首を落としてやろう。歯向かうならそれも良かろう。あいらの掟。わかっているだろうな」
「そんなにこの首が欲しいのなら差し上げましょう。ただし、女王陛下としてここに残るとお約束して下さりましょうな」
クンタはソレアを睨みつけぶれない。流石にガテヤの兄の子だけの事はある。ソレアは答えに窮して言葉が出ない。二人の顔を見ていてとうとう俺の方が折れてしまった。
「どうだろうか。クンタ殿。アの国には女王がいる。その女王は慈悲深い。少々短気だが国民を愛している。アの国の未来のため、国のことは大臣や執政官に任せ、自分は自分にしか出来ないことをやるお方だと言う事でいいかな。なっ良いよな。クンタ執政官」
「旦那様。このクンタを執政官に?だがアイラでは腕っ節が弱い者は発言は許されない。執政官の責務を果たせないだろう」
「ソレア。それは違う。誰か他人に任せなくて自分が全てをやれないだろう。だからクンタであり、親父殿に出番が回ってきたのだ。軍のトップはあのカジテイにしたら良い。誰かの長所を使い、国を一刻でも早く元に戻すのが支配者だろう」
俺のこの言葉にクンタは国の大役を任してもらえると知って、大喜びでソレアに早く行けと急かす。
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