第57話 ええんかい

 ガテヤの驚きに多くの者は不審な顔をした。

「お前とこのあの跳ねっ返りが、女王様になったと布告を聞いて、祝いに訪れた我らを何とする。親戚を代表してお祝い申し上げますぞ」

これに対するガテヤの言葉に多くの者は驚いた。

「あの布告は偽りである。ソレアに与えられる領地など無いんだ。形ばかりのものなのだ。王はソレアから全てを奪うつもりさ」

一同喜び来た事に恥じ入り、どうしたものかと困っていた。中に一人、痩せてヒョロリとした風貌のクンタがいた。クンタはソレアの婿を志願して来ては追い出される様な男で、おかしな事を常ずね言う男であった。

「ガテヤ殿は間違っておられる。何と無位無冠の只の跳ねっ返りが、何とどデカイ大国の王となった。これは事実。只、すぐに王様に献上させられる事はあろうが、女王としての地位を得られたのはこれまた事実。こんな嬉しい事があろうか。我らの中から女王様が産まれたのは名誉な事」

「何を言う。もし、ソレアが王と決闘すると言うならワシはあ奴と戦わねばならぬのだぞ。血肉を分けた親と子が、合い争わねばならぬとは、何と悲しいことではあるまいか。ワシは死んでしまいたいほどだ」

「それは良かった」

「何と申す」

「ガテヤ殿は御年百三十歳。ソレア殿は17歳。あなたが死ねばそれで良いではござらんか。死になされ。あとはソレア殿が二つの国を預かる女王となり、この世界を統べるのです。そのほうがよいと言うもの。さあ、皆の衆、ガテヤ殿の死出の祝いでござる。やっと出来た一粒種の女が王になる。喜び勇んで死出の旅でござる。これを祝わでなるものか」

これを聞いた多くの者は踊りだし、祝いを言いながら酒を飲み出した。これを見てガテヤの悩みも吹っ飛び、酒を飲もうと思い立ち、家来達に酒を振る舞う様に言いつけた。ガテヤの家の周りは昼間から大騒ぎであった。


「ガテヤ殿、ソレア殿はなぜこうなったのか?」

「何の事だ、クンタ」

「なぜに女王となられたのだ。あなた方は騙され虜になったと聞き及び、親戚一同で奪い返しに行かんと息巻いていた所に帰ってこられた。さて、その時ソレア殿はいなかったので、どうしたものかと尋ねたら、嫁に出したとか。嫁に出したら女王とは、いかがなものでしょうなぁ」

「ああ、それか。奴の婿はな。あの恐ろしいドラゴンを使役する者なのじゃ。ワシもあ奴に出会うまでは、聞いてはいたが信じられず、びっくりしたものさ。それもソレアが見せてしまってなあ。相手は否定するが、どうせ死ぬところを助けてくれた奴ならばと、拒む男に無理やり押し付け帰って来たのよ。そうでもせず場、嫁に行くことなどできはしまいと考えておったからなあ」

「ほう。そんな事が」

「笑ってくれぬか。その事でワシは死出の旅路に出るのだからなぁ」

「ハハハハハ。嬉しい限りですな」

「ハハハハハ。そうじゃな」

宴会は楽しく始まり、終わりがなかった。


 その頃王宮では、ガテヤが宴会を開いてソレア女王誕生を祝っていると話題になっておった。王はアリテイヤを呼び出した。

「アリテイヤ。ガテヤの奴め、どうしたものか。ソレアの祝いをしておるのか。奴めこの俺を親子二人で仕留めて玉座に座るつもりであろうか」

「どうでしょうか。ガテヤ殿にお聞きになれば宜しゅうございます。そして、王に謀反を考えておるならば処罰して仕舞えばよろしゅうございます。が、怪物騒ぎを治め、全てが元どおりになった後での事ではあります。それまでは浮かれさせておくのも良いではありませんか」

それでガテヤの事は放っておけとの王の許しを得たアリテイヤは、部下を密かにガテヤの元に行かせた。


 ガテヤの家では祝いの客が大勢押し寄せて来ていた。困ったことに見ず知らずの客も多くいて、誰も止め建するものがおらず、取集がつかずお祭り騒ぎが続いていた。そんな所にアリテイヤからの使者が到着した。堂々と祝い客の中に混じってガテヤの前に進み出た。

「ガテヤ殿、お祝い申す」

「これはこれは、確か御身はアリテイヤ殿のところの、確か・・・・」

「良いです。私の名など。それよりもこの騒ぎ、どうした訳でござろうかと、我が主人アリテイヤが心配致してござる。王様のお耳にも届いてござれば、もう少し静かになさいませ。ご謀反ありと思われましたら何と致します。どうかご自重あります様にとの事でございます」

「そうで御座りましたか。わかりました。もう辞めましょう」

ガテヤは立ち上がると家来達に大声で命令した。

「もうやめだ。客を追い出せ。宴会はお開き。これで切上げとする」


ガテヤの家から多くの客が追い出され、界隈は静かになった。ガテヤは書斎でゆっくり寛ごうと一人座っていた。そこに妻のソニアがやって来た。

「あなた。お疲れ様でした。アリテイヤ様からのお使いの方とのご用はおすみになりましたか」

「ああ、野暮用だ。気にするな」

「心配で、あなた様も」

ガテヤはソニアの言葉を遮ると右手で抱き寄せ、ただ抱いて黙っていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る