第32話 グエルの涙

 グエルは呼び出されオルガの前にやって来た。

「もうクルドの処罰は終わりましたか?」

そうグエルが言い終わるか終わらない内に、オルガはグエルを捕まえ、呼び出した用件を告げた。

「そうよなぁ。グエル。人の事を言う前にお前自身の事を心配した方が良いぞ。クルドは無罪となり、ディオスとお前が誓った約定が今果たされるのだ。何か言いたいのか。何々、犯人は誰なのかだと。そうか、聞きたいか。なら、教えてやろう。犯人はお前が連れて来た人間だ。アキオと名乗った」

「嘘だ。あんな奴に出来ぬ事だ。長老、あなたも理解出来るでしょう」

「だが、本人が証言し、逃げて行った。本当の所は判らない。クルドの罪は無くなり、お前たちの約束が残った。クルドが無罪ならその咎は我らが受けようと言った事、忘れはすまいな」

「待ってくれ、時間をくれ、何とか」

「ダメだ。お前達はワシの言った言葉を忘れたのか。相手に慈悲を与えないのか。それならその身に降り掛かる禍を受ける覚悟があるのかと言い渡した筈。お前の角は折られるのだ。すでにディオスの角は折られた」

オルガに断罪を告げられた時、グエルは怒り狂い、逃げ出さんとして暴れ回った。が、捕まえられおり、角にオルガの手がかかった時、辞めて欲しいと泣きながら頼んだ。

「諦めろ。お前は力無き者を無慈悲にも殺して来た。その力無き者にしっぺ返しを受けて角を折られるのだ。お前の裁定者を自分が連れて来たのだ」


 村の通りを怒り狂い恥ずかしげも無く暴れ回っている黒い龍グエル。クルドを送り出したラディウスの帰り道で鉢合わせをした。ラディウスを見るとグエルは喧嘩を吹っ掛けた。

「お前の所のクルドのせいでこのザマだ。この野郎」

「身から出た錆と言うものだ。言葉にもならん」

「何だと。この野郎」

グエルは火を吐き、ラディウスを痛めつけてやろうとしたのだが、ラディウスは問題にもしない。ただ、この行為はドラゴン同士の間では侮辱に当たるのでラディウスは「良い加減にしろ」と怒った。

「何が、良い加減だ。思い知れ」

グエルが火を吐こうとした時、ラディウスが火を吐いた。この炎はグエルの火とは桁が違った。一瞬で黒いドラゴンのグエルが焼けただれ、灰色になってしまった。もうひと吐きすればグエルは燃え尽きていただろう。が、ラディウスは止めておいた。羽根もボロボロになり、苦しそうにグエルは言う。

「止めてくれ。止めてくれ、ひどい事をしないでくれ」

「お前が始めた事だ。その言い草には呆れて言葉もない」

身体中焼けただれており、涙を流しながらグエルは南にあると言われている癒しの泉に飛び立った。負け犬の遠吠えのような一言を残して。

「覚えておきやがれ。必ずクルドにも奴にも仕返ししてやる」


 ラディウスはその後ろ姿を見送りながら、呆れ顔で溜息をついた。長老オルガに事の顛末を伝え、これで良かったのかと問いかけた。

「クルドの時間はこれで進むのじゃ。この世界は奴によって動かされる。覚えておきなさい。お前の息子の為、ディオスもグエルも生を受けたと言っても過言では無い。勿論ワシをも含めてな」

そう言うと、オルガは瞑想を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る