美少女の告白は信じられない

「もうすぐ離婚するんだ。うちの両親」

「りっ、離婚? そ、それは、、、 ごめん。なんて言っていいか…」


言葉が見つからずに焦ってるぼくに、彼女はかばう様な、それでいてどこか醒めた様な調子で言った。


「別に、お兄ちゃんが気にしなくていいよ。そんなの、世間じゃフツーの事じゃん」

「ま、まあ、そうかもしれないけど…」

「おやじは外に愛人作っちゃって、滅多に家に帰ってこないし、おかんは余裕なくていつもイライラして、あたしに当たり散らしてた。

でも最近は、男ができたみたい。毎晩の様に出かけて、石鹸の臭いさせて帰ってくる。ナニやってきたかバレバレ。ったく、下手な隠蔽工作するなっての。頭悪すぎ!」

「…」

「お姉ちゃんだって、最近はすっかりビッチギャルになっちゃって、髪は金髪だしメイクも派手になって、勉強なんか放ったらかしで、いつも男と遊んでる。

今つきあってる男が、これまた頭悪いんだな~。

姉ちゃんのいない時にうちに来た事あったけど、お茶出したあたしの事組み伏せて、、、 やろうとしたのよ。

ばっかじゃない?

どーしてあんなつまんない男とつきあえるの?! 頭悪すぎ!」

「…」


『頭悪すぎ!』


栞里ちゃんがそう言う度に、彼女の心傷トラウマを痛烈に感じた。

そうやって相手を罵らないと、自分を保てない栞里ちゃんの心のなかを思うと、可哀想でならない。

こんな傷ついてる彼女を、いったいぼくはどう慰めてやればいいんだ?!


栞里ちゃんの表情から、強がりの笑顔さえ消えた。

感情を持たない人形の様に、淡々と話す。


「小学校の頃、あたし、学校の先生になりたいって思ってた。いつでもみんなが笑いあってられる、楽しいクラスを作りたいなって、思ってた。だから勉強も頑張ったし、いい成績を取っていい子でいれば、親も喜んでくれて、離婚しなくてすむんじゃないかとか思ってた、、、

でも、それって、ただあたしが、バカだっただけ」

「バカって、、、」

「成績よくっても、いい子でいても、結局両親は別れちゃうし、自分より頭のいい妹を、お姉ちゃんは妬んで意地悪ばっかりするし、クラスはみんな仲悪くてギスギスしてるのに、先生はなんにもしてくれない。自分のやってきた事って、全然な~んにも意味ない。バッカみたい」

「…」

「あたしさぁ、、、 裏サイトで『ビッチ認定』されちゃったんだ」

「え?」


満面の笑みを浮かべながら、栞里ちゃんは言った。だけどその笑いには、どこかうつろな所がある。


「すごくない? あたしまだバージンだったのに、何人もの男からお金もらってヤッてる、『ビッチ』なんだって。

はあ? みんななに見てんの? って感じ。頭悪いよね」

「…」

「まじめに頑張ったって、勉強したって、結局いい事なんて、なんにもない。頑張るだけ、損じゃん。だったらあたしだって、遊ばなきゃ損じゃない?

どうせ『ビッチ』とか言われるのなら、ほんとにビッチになってやった方が、すっきりするじゃん。

だからあたし、、、 家出したの」

「あ、、、」


やっと納得できた。

栞里ちゃんが家出した理由わけ

彼女にとって、自分を取り巻く環境は、『世間じゃよくあるフツーの事』、なんかじゃない。

そりゃ、離婚もいじめも、世間じゃ珍しくもないかもしれないけど、そのど真ん中にいて、荒波をモロに受けてる栞里ちゃんには、他人には想像もつかないほど、深刻な悩みなんだ。

そんな悩みを、ぼくなんかがどうやって解決してやれるというんだろう?

ぼくの戸惑いをよそに、彼女の話はどんどんエスカレートしていった。


「今回の家出で、2回目なの」

「2回目?」

「初めて家出したのは夏休みに入ってすぐ。その夜は行くとこなくて、公園のベンチで寝ちゃった」

「そっ、そんな、危ないよ! 公園のベンチなんか。だれかに襲われたらどうするんだい!」

「あたし、、、 そうなるのを待ってたのかも…」

「えっ?」

「だって、勇気がなくって…

不可抗力なら、例えそれで犯されても殺されても、『しかたない』って諦められるじゃん」

「…」

「だけど、その夜はなんにもなくて、、、 拍子抜けしちゃった。だから次の日はネカフェで、いろんな掲示板見て回ったの」

「掲示板って… 家出少女と泊め男の出会い掲示板、みたいな?」

「そう。そこで知り合った40歳くらいの男の人の家に、泊めてもらったの。もちろん、タダで泊めてもらったわけじゃない」

「…」

「それが初めてだった。けど、、、 相手なんて、だれでもよかった。あたしどうせビッチだもん。だれとでもエッチするの」

「…」

「でも、援交はしたくない。『お小遣いあげる』って言われたけど、受け取らなかった。だって、お金とかもらったら、ただの売春じゃん。そんな即物的な理由で、家出したわけじゃないし」

「…」

「でもね。おかしいのはね。あたしが二日も家にいなくても、だれもなんにも言わない事。

だれも『どこに行ってたの?』って、訊きもしないし、探してもないのよ。

なんか、、、

家のなかじゃあたし、だれからも必要とされてないんだなって、はじめてわかった」

「…」

「2度目の家出は、お兄ちゃんと会う3日前。泊めてくれたのは大学生の男の人だった。向こうも夏休みだったから、2日間ずっと、エッチばっかりされてた。

だけど、3日目の夜。その人こっそり友達に電話してたの。『中坊拾ったからみんなでヤろう』って。

あたし、なんだか怖くなって、隙をみて逃げ出したの。そしてその晩、このマンションの入口に隠れてて、お兄ちゃんに声かけられたのよ」

「…」


、、、なにも言えなかった。

栞里ちゃんの淡々とした口調から、彼女が話した事が現実だとは、とても思えなかった。

だけど、こんな事でぼくに嘘をついても、なんの得もないだろう。

これは、ほんとの話に違いない。


だったら、、、

どうしてこんな重い話を、あっけらかんと言えるんだ?

それをぼくに話して、いったいどうしてほしいっていうんだ?


つづく

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